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第9話 セプテム-J

 現行犯2人と警察官2人を乗せたパトカーは、軽快なクリスマスソングを流しながら走っていた。


 現行犯の1人、タカンキは不満げに尋ねた。


「あのう…女警さあん、パトカーで音楽って…いいんすか?」


 エヴァは犯罪者に正論を言われむっとしたが、仕方ないので曲を止めた。


「そうだな…これから刑務所入りが確定している貴様らに祝いを送ろうとしたが、確かに今は業務時間内だ」


 少し強がって言ったが、好きな歌手の新曲だったのに…と残念だったことは誰にも言わない。


――


 それから数十分後、車内はとても静かだ。


 道路もスッカスカで心地の良いドライブだ、行き先が留置所であることを除けば。


 するとその時、助手席に座る「緑のヒト」が言った。


「エヴァ、あいつ、変なことをしてるゾ」


 ルームミラーで2人組の方を覗けば、ボブは外を静かに見ている。


 一方タカンキは少し奇妙な行動を取っていた。


 まるでオーケストラを指揮するように片手を上へ、下へ、右へ、左へと動かしていた。

「オイ、やめロ、その動きヲ」

 

 緑のヒトが呼びかけるとタカンキは少し不満気な顔をして動きをやめた。


 数分後、タカンキはこちらに断ってきた。


「警察さん…指パッチンくらいはいいですよね?僕微かな音しか出さないんでぇ…」


 面倒だと思ったが、緑のヒトが理由を尋ねた。


「なぜダ?外にいる仲間にサインを送るためカ?」


 タカンキはちゃらちゃらした様子で答えた。


「いや〜、こういう暇な時少しでも動いてないと落ち着かないんですよ〜」


 エヴァは少しくらいなら許すことにした。エヴァは指で緑のヒトへサインを送った。


「ワカッタ。「指と指を擦り付ける」くらいの動きなら許ス。それ以上はするナ」


「はいは〜い…」


 機嫌が良さそうに答えて、タカンキは指と指を擦り付け始めた。


――


 また数十分して、緑のヒトが言った。


「おい、空気が悪いゾ、砂漠カ?」


 エヴァは静かに頷いた。砂ぼこりのようなものが常に舞っている。


 もしやこれは能力か?砂が浮いているのだから、砂に関する別の能力だ。

「お前ラ、能力を使うのをやめロ」


 その呼びかけに対してボブがとぼけたように言った。

「なんのことだ?能力?知らねえな、てか、あんた何者なんだよ、全身真緑でよぉ」

 ボブはマジなトーンで尋ねた。


 緑のヒトは不満げに黙った。


――


 砂埃はさっきより濃くなってきた。事故を起こしてしまうほどだ。


「女警さーん、空気悪くないすか?空気洗浄機とか…あります?」


「ないヨ、お前ラが出した砂ダ、我慢しロ」

 

 緑のヒトが突き放すように言う。すると、タカンキとボブが靴の中から取り出したゴーグルを何食わぬ顔で装着した。


「ふざけるナ、それはなんダ?挑発とみていいのカ?」


「挑発?違う違う……これはアクセサリーですよ。たまたま置き場が靴の中で、持ってるのがバレなかっただけのアクセサリーです。何か問題がありますか?」

 タカンキが屁理屈をこねる。


 その瞬間、エヴァは決めた。こいつらに必ず吠え面をかかせてやると。

「寒くないか?暖房でもつけてやるよ」

 エヴァは優しく尋ねた。


 この車内に暖房は三つある。


 運転席側に1つと後方の天井に二つ。


 その中でつけるのは運転席側だけだ。


 風力が足りないため自分自身の能力で補うことにした。


 暖房のスイッチを押した瞬間、本来ならばありえない強い風が後方に向かって吹いた。


 視界を遮っていた砂をすべて後方に追いやった。


 後ろにいた2人はゴーグルを付けているとしても、多量の砂を吸い込んで咳き込んだ。

 

「げほっげほっ、女警さ〜ん、さすがに酷くないです?」


「何言っているんだ?暖房をつけた、それだけの事だ…貴様は人の好みに文句を言うのか?風量の好みにだよ」


 前が見えやすくなったことでこの2人を刑務所にぶち込むまでの時間がより一層短くなったように感じる。


 テンションが上がって来たが法定速度は守る。


 ルームミラーから後ろを見ると、それ以上砂嵐が濃くならないことに気づいた。


 さっきまでは時間が経つとともに砂嵐が多くなっていったが今ではそれが一定だ。


 使うのをやめたのだろう。


 能力を使うと体力が消費されるので、暖房に送り込むエネルギーを止めた。


 そうするとまた濃くなってきた。


 風が弱点なのか?そう予想しよう。


 再びさっきと同じくらい暖房の風量を強くした。


 「セプテム-J」、それがエヴァの能力。


 肉体にエネルギーを貯蔵し、属性攻撃や肉体強化として放出した。


 さっきは暖房にエネルギーを与え、扇風機なみの風量に変えた。


「フハハ、やったなエヴァ、吠え面かいたゾこいつラ」


 緑のヒトが嬉しそうに言う。


 ボブが緑のヒトに尋ねた。


「おい、そこの緑、ここらへんって国際空港の近くだよな?」


 緑のヒトはしばらく呆然とした。


 少しの間沈黙が続いた。

 

 しかし突然、不快な音が勢いよく鳴りはじめた。

 黒板を引っ掻いたような音だ。ルームミラーを見ると、ボブが爪で車の壁を引っ掻いていた。


 そして今更ながら緑のヒトが答えた。


「違うゾ」


 本当は国際空港のすぐ近くだが、本当のことを言ってはいけないと思い緑のヒトは嘘をついた。


 「やめろ、妙なことをするな!今すぐにやめろ!」

 エヴァは強く注意したがボブは聞かず壁を引っ掻き続けた。


 目を凝らして見るとそれが文字であることがわかった。

『東経24度59分3.7881秒北緯』


 これは座標だ、なぜか座標をかいている。


 そう気づいたエヴァは運転を緑のヒトに任せてボブに攻撃した。

「高圧電流をお前に流すぞ!」

 

 手を掴まれ、ボブはなにも書けなくなったが、勝ち誇った表情だった。


 タカンキが言った。


「もう遅いぜ?右手抑えたくらいじゃ左手が空いてる、タカンキはすげえ速いんだ、文字を書くのがな」


 左手を見ると、東経24度59分3.7881秒、北緯60度17分45.3206秒…その文字列はすでに後部座席に刻まれていた。


 それに気づいた瞬間、とんでもない轟音とともにパトカーはなにかに正面衝突した。


 車が横転し、エヴァの手足にガラスの破片が突き刺さっている。


 大きなトレーラーにパトカーはぶつかったらしい。


 さっきまではあんな所にトレーラーはなかったはず。きっとボブの能力によるものなのだろう。


 車の下敷きになった緑のヒトが言った。


「あの2人はすでに逃げタ、そしてオイラはもう無理ダ、離脱させていただくゾ」


 そういって、緑のヒトは粒になって消えた。


 怪我だらけのエヴァに、心配した人々が駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?すぐに救急車を…」


「いえ、いりません。それよりこのパトカーに乗っていた2人組はどっちの方向に向かいましたか?」


 尋ねるとある男が怒りをあらわにして訴えた。

「そうです!そうですよあの男たち!私の愛車!高かったバイクを奪い去って行ったんです!私の妻の分も!」


「ご協力、感謝します必ず取り返しますので…ご安心を」


「ど、どうやって追いかけるんです?やつら、バイクで逃げてましたし法律守るようにはとても見えない、それにあなたは怪我ッ怪我してますよ!」


 親切な人がそういったが、エヴァは安心させるように、笑顔で答えた。

「追いつけます、あいつらの落としていったものがありますから…」


――


 「風を感じるなあ!タカンキ!気分がいいなあ!法定速度を破るってのはよお!」


 ボブとタカンキは警察から逃げ切るため、バイクを盗んで遠くまで走っていた。


「ああ、みるみるうちに景色が変わって行く…ロケットが地面スレスレを飛んでるみたいだぜ」


 タカンキはあまりの気持ちよさによくわからない比喩を使ってしまったが、楽しいのでよしとした。


「どうする?このままじゃあ多分指名手配だ」


 タカンキが尋ねるとボブは自信満々に答えた。

「ああ!いい考えがある。パリにいる俺の友人を訪ねるんだ。そいつは俺とおんなじ名前、ボブさ!ボブ・ジョ…」


 余裕そうにドライブをしていると、後ろに大きなに影が迫っていることに気づいた。


 トレーラー、さっき落とした巨大なトレーラーだ。乗っていたのはさっきの女警だ。


「なにッ!馬鹿なッ、俺の能力はその物体しか落とせないはず、だから、ガソリンなんか入ってないはず!」


 エヴァは脚に運動エネルギーを貯めてフロントガラスを割り、ボブの乗っていたバイクに乗り移った。

「馬鹿が、罪に罪を重ねやがって」


 エヴァはガソリンの代わりにエネルギーをトレーラーに放出しトレーラーを動かしていた。


 エヴァはすぐにボブに手錠を掛け、動けないように少し強い電流を流して、気絶させた。


「くそ、こいつ重いな…」


 ボブの置き場に困っていると、パトカーが並走してきた。

「警察だ!すぐにバイクを停めろ!さもないと…ってエヴァさん!?」


 名前を呼ばれて顔を見てみたが、後輩なような…同僚のような…先輩のような…まあなんでもいい。

「誰だが知らないが…これ、受け取れ!」


「え?こ、「これ」ってその男ですか?」

 警察官は顔を真っ青にさせた。


「そうだよ!投げるから受け取れ!」


 警察官はこいつまじかという表情で言った。

「先輩!あんた頭おかしいんですか?車間距離とか、スピードとかあるでしょう!」


 後輩だったようだ。どうでもいいが……バイクの速度を変えずにボブを後輩に投げつけた。


 後輩は飛んでくる現行犯を恐れながらも、なんとかキャッチした。


「と、取れたあ!やったあ!キャッチャーの才能あるかも」


 次はタカンキだ。ボブが乗っていたバイクに乗り鬼のスピードで走るタカンキに追いつこうとした。

「おいおい女警さん!あんた道路交通法破れんの?俺は今140キロで突き進んでるんだぜ?」


 煽られたが絶対に法定速度は超えない、そんなことをしたら犯罪者と一緒だからだ。


 しかしエヴァは自分が自動車やバイクの類いではないことを理解している。


 そして自分の能力を利用すれば自動車以上のスピードが出せることも。


 エヴァはおよそ時速140キロメートルで駆け出した。


「な、なにぃ!?追いつかれる!?」


「エネルギーを利用するのが私の能力、自分の中にある体力をエネルギーに変換したから今月は歩けない…どうする?今私とお前は時速140キロメートル…そして私はこの状態でも180キロが限界だ…そのバイクなら200帰路が限界かな?」


 限界を聞いたタカンキはニヤリと笑ってスピードを上げ始めた。


「なら俺の勝ちってことだろ?てめえは俺に勝ちを確信させた!馬鹿警察官がよおおおおおお!!」


 バイクは時速150…160…170…180…とスピードを上げた。


 エヴァとの距離はだんだんと離れて行き遠く!

 

「風になった気分だぜえ!ボブには悪いが、俺の逃走撃が始まっるぅぅ!」


 タカンキが走っていると、カーブが現れた。


 時速200キロで走るバイクはこのカーブを曲がることができない。


 非情な現実に、タカンキは死を悟った。


 しかし衝突する直前、時速210キロメートルで走ってきたエヴァがバイクを受け止めた。


「法律ってのは守るもんだ、ルールだからとかじゃなくて、危ないからな…」


「女警…てめえ180キロメートルが限界って…」


「嘘…ではないが、昨日ラーメン一杯と替え玉2つ食ったからな、たくさんエネルギーがあった…使い果たしてしまったがな」


 エヴァはバイクの傷などを確認したあとタカンキに手錠をかけた。

「んな馬鹿な……ふざけるなあ…」


 エヴァの後輩にタカンキは預けられ、エヴァは歩道に戻ってそのまま倒れ込んだ。


 体にあるエネルギーのほとんどを使ってしまった…今年中に回復は無理かなあ…エヴァは静かに悟った。

セプテム-J、エネルギーというか属性攻撃です。風に当たったら風を出せるようになるみたいな

まあ深く考えずに読んでください。気楽にね

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