第4話 クソデカ包囲網
面白かったら嬉しいです。
大きな大きな木、飾り付けられていくにつれてそれは巨大なクリスマスツリーへと変貌していくのだ、カヤノは早くそれにするため木を飾り付けていた。数日後に始まるクリスマスマーケットのためである。
「カヤノ、持って来たぞ」
カヤノの父親が飾り付けの入った段ボールを持って来てそう言った。
「あぁありがとよ、えーと…」
親父や父さんと呼ぶべきか、それとも名前で呼ぶべきか、カヤノはいつも迷ってしまう。なぜならカヤノの父親は多忙であり、幼い頃からあまり交友がなかったのだ。特別仲が悪いわけでも、母親との関係が悪いわけでもない、ただただ静かで近寄りがたいだけだ。
口籠もるカヤノを見て父親は言った。
「どうした?」
「あ、いやなんでもない…」
悪い人ではないがとても仲良くなれる気が気がしない。
準備をしていると、誰もいない貧相な屋台を見つけた。骨のような物が並んでいて、値札は付いていない。輝きこそないがなぜか惹かれる物があった。
「商品じゃ…ねぇのか?」
気味が悪いと思いながらもその骨を持ち上げようと手を近づけた。カヤノの中指の先端がもうすぐ化石に触れるという時、横腹を何かが掠っていった。
「かかったな…その気味が悪いもんに興味持つ奴なんて…そういないよな〜」
電柱の後ろから40歳くらいのスキンヘッドの男が笑いながら現れた。
「だ、だれだ?」
そんな事を聞かずとも、この男とこの貧相な屋台はベストマッチなことがわかった。きっとこの屋台の店主なのだろう。
「俺に答える必要はない、俺はこの屋台の管理者だから、お前になぜ触ろうとしたのかと聞く「必要」があるんだ…嬢ちゃんよぉ…」
気持ちが悪い雰囲気だ、全て計算してここまで来たという感じがする。
「俺は別に盗みを働こうとはしていないぞ、それと嬢ちゃんじゃなく俺は男だ」
男に背を向けて準備に戻ろうとすると、足を再び何かが掠った。振り向くと男の二の腕が一部、結晶のように硬質化していることがわかった。
「これは…俺の能力「レプタイルスケイル」、てめぇの脳天をぶち破ることだってできたのさ」
擦り切れた足を抑えながら、カヤノは恐れた。痛みと何を言われているのかわからないことに怯えた。
「レプタ…なんだって?俺は何も…知らねぇ」
そう言った矢先、昨日の昼、幹部のマルスの話を思い出した。化石のことやそれを触って得られる能力とやらのことだ。だが知らないふりをする方が今は遥かに都合がいいだろう。
「知らねえわけないだろう?お前はその化石に触れようとしたんだ…何も理由が、ねぇわけねぇよな?」
「い、いや本当に知らない、その骨みたいなのになんだか得体の知れない魅力を感じたって言うか…」
口ごもったがいいことを思いついた。
「そ、そうだ!その化石俺にくれよ!金ならそれなりにあるし…屋台に並んでるんなら売り物なんだろ?」
手に入れて組織に流す、そうすれば報酬が手に入れられるってことだ、あまり頭の良くないカヤノが考えられる最大限の策だ。だがカヤノ期待に反してまた男の能力で指にまた何かが飛んできた。
「舐めんなよ!こいつはエサだ、化石を手に入れようとするやつを見つけ出し、捕まえ他の化石の場所を吐かせる為のな…」
こいつやはり計算していた。
「他の化石の場所っててめぇ…俺が他の化石の場所知らなかった場合は…どうなる?」
「目障りだから殺す」
聞かなきゃ良かったと後悔した、こんなに早く返答が来るなんて…カヤノはすぐに横腹と脚の痛みを堪えながら走り出した。
人に殺されそうになってる時、人はこんなにも恐ろしいんだと知った、それにしても「目障りだから殺す」だなんて人間の言うこととは思えない。だが、愛しの家の中に入りさえすれば安心感で包まれるに違いない、そう思ってドアを開ける、中にヤツがいるなんていうB級ホラーみたいな展開がなくとりあえず安心、母親も父親もクリスマスマーケットの準備に勤しんでいるのでこの一戸建ての中にはいない、だが中には1人座禅を組んで座っている老人がいる、その1人に向かってカヤノは語りかけた。
「ただいま、じいちゃん」
そう優しく問いかけた所でじいちゃんから返事が返って来ることはない、じいちゃんは10年前から意識と生命活動に必要な動作以外全てが硬直するという病気にかかっているらしい、聴力はあるらしいので聞こえてはいるみたいだが全くその実感は湧かない、今でこそひょろひょろの雑魚みたいな体だが、昔は探検家でムキムキだった、その冒険譚を今でもはっきり覚えてる。
カヤノはベランダから外を除き込んだ、11月の午後5時、外は暗いが歩いておる人がいてあの店主はいない、そんなに追ってくるつもりもないだろう、ひとまず安心と思い座り込んだ。
「あの店主…まじでイカれてるぜ、本当に…」
クリスマスマーケットの準備にも戻らないと母さんから怒られるかもしれないが、あの男の露店が同じ広場にあるせいでそう易々と戻れはしない。カヤノはクローゼットに向かった。
「さて…お着替えかなぁ…」
カヤノの女装趣味は幼い頃、カヤノ自身の可愛らしい外見の影響で母親に着させられた所から発現した、それが自分でもハマって日頃から女装しているのだ。
着替えは完了した、焦げ茶色のロングにウィッグを変え、厚手のパーカー、ここまで印象を変えればあのイカれ店主にバレずに準備に戻れる、あとは広場に戻るだけだ。しかし一つだけ、右目の下の泣きぼくろまでは誤魔化せなかった、まぁ流石にそんな所までは見ていないだろう。そう思って外に出た。
露店を見たがあの店主は居なかった、あの姿の俺を探し続けているのだろう、このまま戻ろうと思ったその時、どこからともなくビー玉のような塊が飛んできて着ていたパーカーがバスケのゴールみたいに受け止めた。
「なんだ?このビー玉…」
怪しく思って手に取ると、「カチ」という男がして膨らみ始めた。
「この音、爆弾かッ!?」
危険を感じて路地裏の方に投げ込むと、思った通り破裂し、尖った結晶のような物が四方八方に飛び散った、俺の右手にも刺さって来た、痛みを堪えて取り出すとこれは間違いなくあの店主の物だ。
「どこにいる…どこかに隠れてんだろ?」
どこかにいるはずの店主に問いかけた、あたりにヒョロガリスキンヘッドは見当たらない、探していると店主と思われる声が聞こえた。
「少し見た目を変えた所で、俺の目を欺けると思ったか?眉毛の形、ほくろの位置、俺は俺が殺すと考えた人間、いやアリ1匹の形も決して忘れない」
「そんなところまで見てるなんて…とんだ変態だな」
そう言いながら四方八方全ての方角を探した、だが見当たらない。
「隠れやがって…どう探せば…」
と考えていたが、思いつかないのでとりあえず開けた場所へ走った。
「こんな広場に出ても周りを巻き込むだけだぞ?さては頭悪いなお前」
どこから響くかわからぬ声で頭の悪さを指摘され、とても頭に来て、八つ当たりで空き缶を空に投げた。すると空き缶は空中で静止した。
「あ?えっと…もしかしててめぇそこにいるな?」
空き缶に向かって言うと、カヤノの肩にぽしゃりぽしゃりと水滴が着地した、雨ではなくそれは汗だろう、上にいるやつの汗だ。
「なるほど、咄嗟にキャッチしちまったって事かマヌケ野郎が」
きっとさっきの結晶かなにかの能力で空に隠れてたのだろう。上と分かれば話は簡単、あの店主の露店に向かって走った。あそこならば上に傘もあり攻撃を防げると思ったからだ。
店主は結晶を乱れ撃ち、だがそれは逆に常に店主が上にいる事の何よりの証拠だった。すね毛のない綺麗な足を露店に滑り込ませた。
「そんな傘程度で身を守れると思ったかぁ!」
店主は身を守っていた結晶を剥ぎ取り、全てを右手に集め、傘を勢いよく突いた。しかし破れた傘の先には、もちろんカヤノがいた、しかし鋭い右手が突いていたものはカヤノではなく、大切にしていた化石だった。カヤノの両手ももちろん化石に触れていた。カヤノは勝ち誇った目つきで言った。
「たしか、これに触れば能力ってのが手に入るんだっけか?一体俺のはどんなのだろうなぁ?」
これはまずいと、店主は距離を取った。
「どんな能力だと?どんなもんでもてめぇの頭じゃ理解できないと思うぜ?」
「そうなのか?俺の能力なんだから単純なもんだと思うがな」
カヤノの勘は言った、この男はなにか最悪を起こそうとしていると、自分の身の回り、いや世界中の全てを負に陥れるようなことをすると、カヤノの勘は強く訴えた。不敵にこちらを睨み笑うひょろひょろな男に、とても強く言った。
「これからどんな事が繰り広げられようが、必ずお前をぶちのめす」
自信満々に宣言したその瞬間には、あちらからの攻撃は始まっていた。突如としてカヤノの頭上に黒く丈夫なワイヤーのような物が現れて落ちた、カヤノはあっという間に閉じ込められた。
「笑える、笑えるぞこれは!真に賢いやつなら無駄にカッコつけた宣言なんかせずにテキパキ捕まえ、殺す!今からお前がやられることさ!」
「くそ、このワイヤー…硬い…ッ」
なんとか抜け出し、走り出した。
「無駄だぁ!喰らえ三日三晩の努力ぅ!」
男がそういうと再び頭上に黒いワイヤーが現れ、落ちてきた。なんとか避けながら走り出したがそれはどこに行っても現れた。
「俺の能力を教える事はできないが、今何が起こってるかくらいは教えてやる、これは俺の体から出た皮膚を結晶化させ加工したものだ…そしてそれを今日まで3日間町中に張り巡らせた!つまりどこに逃げても無駄なんだぁ!」
言ってることの規模のデカさに、カヤノは言葉を失った。しかしそうしてる間にも、相手が話し終わったので再びワイヤーが落ち始める、カヤノは避ける隙もなく再び捕えられてしまった。カヤノは諦めたように地面に手をつき言った。
「なるほど、これで上に隠れてたってことか…お手上げだお手上げ、だからせめて命は助けてくれよ」
やる気のない命乞いをし、その場に倒れ込んだ。
退屈でも最高でも、読んでくれてありがとう