第2話 目的
ほとんどはキャラ紹介の話です
ここはロヴァニエミ、サンタクロースの故郷とも名高い街だ。この街にソラノは暮らしている。
そして昨日任務を失敗したソラノ達は長い長い説教を受けていた。
「もしその警備員に顔がバレていたら貴様らは捕まるし下手したら組織だって崩壊しかねない、わかっているのか?」
腕を組みながらソラノを叱っているこの男はマルス、謎の組織の幹部の男だ、フランス出身らしい。
屁理屈をこねて「疲れてる奴は上なんか見ない」と適当なことを言っていた割には偉そうだとソラノは思った。
面倒くさいので聞いてるふりをしながら妹へのお土産を考えているとあっという間に話が終わった、解放されると喜びかけたが今回はもう一つ話があるらしく、淡々と話しました。
「そういえば組織の活動理由を伝えていなかったな、教えといてやる、まずは貴様らが気になっているであろう?あの化石についてから話してやろうか」
突然始まった説明会にソラノたちは困惑したが、話した内容を短くまとめると、あの化石はジュラ紀に存在した巨大な岩石竜というティラノサウルスの変異種の化石であり、それに触れることで超常的な能力を手に入れることができる、そして海や空にも同様の変異種が存在していたらしくその全てを集めてそれらを全てボス自身の手で「封印」することが謎の組織の目的ということだった。
「つまり貴様らにはこれから組織の集めたいる化石を探してもらう、報酬は弾むし海外に行くなら交通費も肩代わりしてやる、お土産は買ってこなくていいぞ」
言い終わると颯爽と帰って行った、するとマルスと入れ替わる形で遅刻していたアルトが急いで入って来た。
「あれ?マルクさんもう帰っちゃった感じ?」
逆にタイミングが良すぎて笑い転げそうになったがカヤノが答えた。
「あぁさっき帰ったよ…」
カヤノはさっきマルスが言ったことを話そうと思ったがまぁ遅れたのが悪いだろうと思いやめた。
「あちゃ〜…なら弾き語りしてくるね〜」
そう言ってすぐにどこかに行った、アルトは世界的なロックミュージシャンを目指している、そのためにいつも寒い路地でギターを演奏しているのだ。自由すぎてソラノ達は呆れている。アルトの登場と退場に動じずにスマホの画面を見ていたラルナにカヤノが聞いた。
「さっきから何見てんだ?」
ラルナはめんどくさそうに答えた。
「職場のシフトを組んでるだけだよ…」
カヤノがラルナのスマホを覗き込むとそこには信じられない量の予定がありその9割が仕事だった。
「まじかよおめぇ!そんなに仕事入れて大丈夫か?」
カヤノが驚いて聞くとラルナは一言「そりゃあね」とだけ言ってこの場をあとにした。
「よく働くなぁ…もっとなんか…ないの?」
その背中を見ながら少ない語彙力で文句を垂れた、独り言とわかっていたが今まで黙っていたソラノが言った。
「小さい頃に父親が殺されて1人で生活してるんだってよ、学校とかも行ってないらしい」
カヤノはそれを聞くと口を大きく開けて「しまった…」という顔になった。
「やべぇ…俺傷つけちまったかな?」
カヤノはどうやら裕福な方の家らしく、無意識に傷つけてしまったのかと強く反省しているようだ。ソラノはそんなカヤノをなだめるように言った。
「まあ、ラルナも頑張ってるみたいだし次会った時にでもあやまっとけよ」
「ああ、そうするぜ」
ソラノがふと時計を見ると予定があることを思い出し急いで準備を始めた。
「すまないカヤノ、ちょっと用事があるからまた今度」
妹が病気で今は入院している、母親は妹と同じ病気で死んで父親は忙しくたまにしか帰ってこない。ラルナほどひどくはないと思うが結構運の悪い方の人間だと思う。そんなことより妹へのお土産にと書店で買った本も持ったし、あと少し歩けば妹、スイのいる病院だ。意気揚々と歩いていると誰かに後ろから声をかけられた。
「やあ、元気か?ソラノ」
驚いたが後ろを振り向くとそこには見覚えのある女性がいた、警察の格好をしているこの女性はエヴァ、もちろん格好の通り警官で、妹のことで何かと手伝ってもらっている。
「ああ、こんにちは、久しぶりですね」
「久しぶり、今からスイさんの所へいくのか?」
「はい、寂しい思いはさせたくないのでそれじゃ」
そのまま行こうとするとエヴァに引き止められた、明るい口調から打って変わって真面目なトーンで尋ねて来た。
「本当にスイさんが治ったら謎の組織をやめるんだな?」
ソラノは一瞬背筋が凍りそうになった、エヴァは警察であるがとてもお人好しでソラノが妹のために組織にいることを知っているがその上で支援してくれている、そのかわりスイの病気が完治すれば組織をやめるという約束をしている。ソラノははっきりと答えた。
「はい、スイが元気になればその瞬間から僕は組織の一員ではなくなります」
エヴァは少し黙り込んでから言った。
「そうか、安心したよ」
静かな病室にやって来た、外を見ながらベッドに横たわる少女こそが、ソラノの妹スイ・ナードレスである。
ソラノと同じ藍色の髪を揺らしながらこちらを向くと寂しそうな表情は途端に笑みへと変わった。
「お兄ちゃん!久しぶり!」
「あぁ、久しぶり、調子はどうだ?」
「さっきまではきつかったけど今は全然大丈夫!お兄ちゃんこそ、元気?」
スイは純粋無垢な笑顔をソラノに向け、その笑顔を見るだけでソラノは頑張れる気がした。そのまま看護師に出ていけに言われるまで語らい、最高の瞬間となった。
昨日ソラノたちを発見した警備員の1人、モラ・アレックスはある男に恋をしている。その相手はが昨日のもう1人の警備員で今横に座るアーネット・アデクである、モラは本来臆病であまり派手ではないが、アーネットの前では強気な姉貴のような性格を演じている、これは2年前アーネットを街角で見かけ一目惚れをして以降アーネットの趣味嗜好、好きな歌手から好きな牛肉の部位、さらにはアーネットの好きな女性のタイプまで個人的に調べ上げそれに合わせて変装しているからである。
そして今日はアーネットから話があると言われ小さな公園に連れてこられた、告白だろうかプロポーズだろうか。浮ついた感情でベンチに座るアーネットの横顔に見惚れているとアーネットが話始めた。
「なあモラ、俺は今から馬鹿げたことを言うが聞いてくれるか?」
「え?まぁ…聞くが」
アーネットの前では口調や声色も変えている、ここまでしておけば実はおとなしい性格をしているなんて気付かれるはずがない。
アーネットは黙って新聞を渡してきた。モラはそれを受け取り読んだ。
「今日の朝刊だな…えーと…「国連が謎の組織への本格的な捜査を開始」謎の組織の構成員1人につき…60ユーロの賞金!?指名手配犯かよ…」
驚いた勢いで普段の声が出てしまった気がしなくもないが気にしないことにした。
「これがすげぇって世間話にきたのか?」
そう聞くとアーネットは答えた。
「違う、ちゃんと話があるんだ、昨日の侵入者…あいつらって警察の見立てじゃ謎の組織の構成員って話だったよな?」
「ああそうだったな…確か」
モラはそう答えた後の数秒でアーネットの言おうとしている事を予測した。
「お前、もしかしてその構成員を捕まえるってのか?」
アーネットは小さくうなづいた、だがモラはアーネットが危険に晒されるかもしれないことはあまりさせたくはないのでなんとか引き止めようと反論した。
「捕まえるっつっても…手がかりとかあるのか?無闇に追った所で時間の無駄じゃ…」
「いいや、その心配はない、ちょっと見といてくれ」
そう言ってアーネットは財布から1ユーロ硬貨を取り出し、手から離して地面に落とした、すると1ユーロ硬貨はみるみるうちに形を変え、地面に着地した頃にはギターを演奏する時に使うピックへと変わっていた。そのピックを再び手に取って言った。
「このピック、昨日の奴らの1人が落としてった物でな…よーく見ると油性ペンで『アルト』って書いてある、ありがたい事にな、これが手がかりだ」
なるほどと感心したがそんなことよりも、今起こった現象に興味が傾いた。
「ま、待て…今一体何が起こったんだ…?さっきまでそれは金だったはず…」
アーネットはこれから教えてやると言わんばかりに答えた。
「これも、昨日誰かが落としたわけでもなく突然俺に発現した超能力みたいなものだ、触れた物体の形を再構築できて、俺が戻したいと思えば元に戻る…今朝からずっと研究して85%は理解できたから、護身用にも使える、モラが心配してる俺の安全もこの力でなんとかなる」
そんなものがあるのかと疑ったが、そういえばアーネットは昨日柱をドロドロに溶かして侵入者の居場所を突き止めていた。アーネットは続けて話し始めた。
「でも…1人で探すのは心細い所もあるからな、モラ、一緒に探さないか?賞金はもちろん山分けで」
その提案にモラは迷わずYESだ、なぜならアーネットが自分の事は自分で守れるということはいざという時にモラのことも守れる、守ってくれるという事、そしてその時の背中は薔薇より美しく、人生で最初に見たティラノサウルスの姿よりかっこいいと、きっとそうだ、間違いない。
「いいぜ、一緒に一生暮らせるくらいの金を稼ごう」
次回から本格的に能力バトルが始まります、お楽しみください。