修行を始める凡人
「お前さん、本気か?」
「まぁ…ガルド、この話は外でやろうぜ」
ガルドは周囲を見渡して頷く
「皆の者、騒がせて悪かった」
そうして、建物の出口をくぐり
「…だが俺も雑魚の剣に収まるつもりはない」
「だから」
ゲンゾーは凡次を指さす
「お前を強くする」
「丁度いいわ、凡次にはこれからの予定を把握してもらおうかしら」
「とりあえず、私があなたにこの世界の知識と魔法を教える」
「ゲンゾーは凡次の基礎戦闘力向上と剣術の師事」
「私とゲンゾーの両方、凡次が魔王討伐にいってもよいと思うまで龍の国で鍛錬ね」
「それと」
プルエルが片手を空へかざすと紫の空間が現れその中から手帳を取り出す
「はい、凡人の魔王の倒し方ノート」
「略してb.mノート」
「凡次が道に迷ったら、このノートが凡次に道を示してくれる代物よ」
凡次がノートを受け取る
それは、大分使い込まれていて、表紙には汚れ跡の様なものがついていて、何故か愁いを感じる持ち心地の妙なノート
「これは…」
「まぁ、取り敢えず持っておきなさい」
深堀りするほどの違和感ではなかったのでそっと疑問を胸に留めた
「あぁ…話してるところすまん」
「これから行くところを話したい」
「これから行くところ?」
***
凡次の吐く息が荒くなる
一歩…一歩、進むごとに視界が狭まり鼓動の音が激しくなる
方向感覚が狂い始め、今自分の向いている方向が常に目まぐるしく変わるような感覚に、凡次は覆われていた
「着いたぞ」
その言葉にハッとし、極度の疲労によって封印された言葉を解く
「ハァ…あの、ここは…?」
「俺んちの道場だ」
「今日からここがお前の修行場所だ」
凡次の修行場所は盆地の下街を上がって抜け、付近で明らかに一番高い山の頂上付近に建てられている
その様は見事なもので道場を囲うように肌色の岩が距離を置いて周りを囲っており、道場の裏手から突き出す尖岩が、見事に太陽を真っ二つにしている
(この世界、景色は本当にいいな)
「なに、ボサッとしてんだ、早く中に来い」
「あ、すいません」
凡次が道場の中に入る
「どうだ?俺の道場は」
「すごい、良いと…思います」
疲労の余りに凡次が床へ倒れ込む
「おいおい情けねぇなぁ」
「エルに魔法かけてもらってもこの有様か、一般人より相当体力ないんだな」
「ま、魔法?」
「お前が生身でこの山登れるわけねぇだろ」
「魔法の補助なしで登ったら普通死ぬ」
「この山は大体一日と半日かけて登る上、道中魔物も襲ってくる」
「え!魔物出るんですか?」
「あぁ、だが修行の度にここを登って、襲ってくる魔物をボコボコにしてたら、俺は襲わなくなった」
「魔物は賢いからな、パワーバランスを理解したんだ」
「…なるほど」
「まぁ、今日は色々あって疲れただろう」
(やっと休みが…)
「修行開始だ」