凡人と殺試合サッカー
マーリンは粛々と、しかしどこか嬉々として得点板に騎士王の得点を書き込む
しかしそれに待ったをかける男がいた
「待ってください、重傷に値しかねない魔法の使用は禁止じゃないんですか?」
凡次は騎士王のキックオフに異議立てする
「馬鹿を言うな、王は魔法など使ってない」
「あれは生身の身体能力で行った御業よ」
「いやだとしても駄目でしょ!生身であれとぶつかったら僕原型留められませんよ!」
マーリンは呆れてされど毅然と返す
「あれで粉々になる十二の王剣なら元より相応しくなかっただけの話だ」
「いやそもそもこれ親睦会!相応しいかどうか確かめる場じゃねぇよ!」
「まぁ、王を楽しませるよう注力せよ、死人が出ては興も冷める」
マーリンは凡次の弁を無視して自陣へ戻る
「いや話聞けよ!!なんでこの世界の住人は殆ど話聞かねぇんだよ!」
愚痴を漏らすもやるしかないと覚悟を決めて、凡次もまた自陣へ戻る
「言っていなかったが、この試合は十五分で試合終了だ、精々励め」
2ゲーム目、マーリンの炎弾上がりて、ボールを文字通り足蹴にするのはゼサム公
キレッキレのドリブルで騎士王チームの面々を抜いて残るはディフェンダーマーリンとの一騎打ち
「ふん、役立たずどもめ」
「オメェもその役立たずの仲間入りだぜ?」
ゼサムがマーリンの右へターンドリブル、マーリンの背後へ駆け抜けた
【風魔法:風よ吹き荒らせ】
「なっ!」
ゼサムのドリブルは空を蹴り、ボールはマーリンの足元へ舞い降りる
「飢島!」
マーリンは飢島にパスを出し、攻防一転騎士王チーム攻めの構え、飢島は源蔵に続けてパス
「王に繋げろ!」
「…断る」
源蔵の自尊心が甦り、今息を吹き返した
鬼神の形相しかして足元には空気の球、源蔵はサッカーではなく殺試合をしているのだ
「クソがッ!」
疾く駆ける駆け、この男目の前しか見ていない、ゼサムチームの面々抜けて駆け、止め参じたプルエルと対面だ
「どきなエル、今は手加減出来ねぇぞ」
「そう、じゃあこっちも手加減なしで」
【炎魔法:炎よ燃え上がれ】
襲うは炎弾狙うは源蔵、猛々しく燃える火に源蔵は徒手空拳で迎え撃つ構え
【無刀術:蛇咬絡墜】
炎弾を徒手にて取って消し炭に、だがその隙、刹那の生まれた僅かなコンマにボールを奪われる
奪ったのはアルフォンス、十二の王剣最強の騎士は奪ったボールを運んで源蔵の背中を無き物に…出来ない、源蔵この男、ボールを奪われて即座に背後のアルフォンスへ追いつき、タックルをかましてボールを奪い取ろうとしている
「………しつこい、ぞ!!!」
目には目を歯には歯を、タックルにはタックルを、源蔵&アルフォンス、フィールドの中で押しくらまんじゅうよろしく殺試合の真っ只中、無論そこを見逃す猛者達ではなく、プルエルとマーリンが魔法でボールを自陣に戻そうとしている
マーリンは騎士王にボールを届けるため、プルエルはまた騎士王にボールを打たせないため、両者の力は拮抗している
「存外やるではないか、妖精」
「あんたもね、でもこれで…」
【炎魔法:炎よ燃え上がれ】
「魔法の併用だと!?」
魔法の押し合いの最中放たれた炎弾により、ボールはタルトルの元へ舞い降りる
「降りろ降りろよ太陽よ、我が御業押して参れ」
兜の中から詠唱の音が低く響き、重装甲の足を振り上げボールを穿つ
【属異魔法:我身を照りて頂に在り】
タルトルの放った魔法により、足が光を放ち出し、蹴ったボールは照り輝いて、正に灼熱の太陽が如く変身し、放たれた直線上の物を焼き尽くす
迎え撃つはキーパーのトリエル、多少マーリンによって威力を殺されているが、依然として暴れ牛の様は変わらず突き進む
【土魔法:土よ盛り上がれ】
盛り上がった土の壁、砕かんとするはタルトルの放った太陽のボール、距離は縮まり両方がぶつかり合う
勝ったのは太陽、タルトルの放ったボール
ゼサム公チーム一点得点
マーリン悔しみの私情駄々漏れで得点板に点を足す
「属異魔法、ガサルに由来するものかしら…」
プルエルは冷静に味方を分析する
「属異魔法ってなんでしたっけ?」
分析に凡次が疑問を呈する
「魔力の性質を誰かにとって都合の良いよう編纂された魔法のことで、普及していて誰でも使える公共属異魔法と、暗号化されていて特定の人間にしか使えない固有属異魔法の二つがあるわ」
「今回のは後者ね…って、授業でやらなかった?」
やっている。やっているが、凡次は授業の内容を少し忘れている。なのでこの先またこういう事は起こるだろう
「記憶はあるんですけど、なんかこう靄がかかってて…」
「…まぁいいわ、それより配置につきましょう」
「またあのシュートが来るわよ」
騎士王はボールの前に立つ、今度もまたあの絶技を披露するかとピッチ上の皆は思っていた
しかして現実は予想を常に裏切るのが定め、今回もそんな定めは正常に機能する
騎士王はγにパスを出したのだ
「私!?」
γは戸惑うもすぐにスイッチを切り替え、源蔵に良い所を見せようと獅子奮迅の勢いだ
(なんで王様はパスを出した?いや、それより今は…)
γは小柄な体と俊敏さを使いフィールドを駆け抜ける
「さぁ止まりなさいチビ助!」
ディフェンダーのアーシャとイーシャとの対面、左右は固められ右にも左にも抜けられない
ならば上へとボールは上空へ、γは飛んで空中でのバイシクル・キック、迎え撃つフィシェルは徒手での応戦、踏み込んだ足、飛び立つ体、伸ばした腕、ボールには惜しくも届かない、太った腹が災いしたか
崩れ落ちるフィシェルにゼサムが駆け寄る
「もっと痩せろ!な?」
「………なんで、サッカー初心者の少女が初めて数十分でバイシクル・キックできるんですか…」
「………腹の違いだろ」
「クソ女が」
ここでフィシェル王族への暴言、やはり脂の乗った口はよく回る
一旦皆配置に戻り、ゼサムキックオフ、開幕猛スピードで駆けダルクとシャンヒが止めにかかる
「通しませんよ、ゼサム公」
「よぉシャンヒ、今度はちゃんと守れよ?」
【聖魔法:光よ貫け】
五本の光の槍がゼサムを襲う、ダークがカバーに入ったのを見てアルフォンスにパス、だがそれを飢島がカットする
(残り時間は約一分、ここで決めれば勝てる!)
「王!!」
飢島が騎士王にパスを繋げようとするその時、凡次がボールを奪い取る
「カット返し…」
ボールを奪い取った凡次がフィールドを駆ける。稲妻の如く、この男、プルエルから身体強化とは別に風魔法で速度を上げてもらっている。本人も風魔法を上乗せし、凡人は今風と化していた
「身の程を弁えろ、凡人めが」
相対するはマーリン、通常絶対敵わない、だが相手は凡次を舐め切っている
【風魔法:風よ吹き荒せ】
マーリンは案の定同じ手で凡次の足元のボールを奪い取る
内心嘲りながらパスを繋げようとしてボールを蹴る、だがマーリンのつま先は何故か水飛沫を立ててパスは繋がらない
「まさか!?」
【水魔法:水よ何をも惑わせ】
マーリンが奪い取ったそれはボールではなく、光の屈折を利用して作った水のフェイクボール、真のボールは凡次の腹の前に魔法でカモフラージュを施され浮いていた
本来なら気づかれていたそれは、マーリンの油断によって成り立った
残り時間は約二十秒、真のボールは地に着いて放たれる
「その程度のボール素手で十分」
トリエルは詠唱の時間がないと判断し、素手で取ろうとボールへ手を伸ばす
「させる訳ないでしょ」
【水魔法:水よ何をも惑わせ】
取ろうとしていたボールは、プルエルによって6つに分裂、いや増えたのだ
増えたボール同士の位置は激しく切り替わって円を描き、ネットにて五つは水飛沫を立て、本丸はネットへと食い込んだ
ゼサム公チーム一点得点と同時に試合終了、凡次の得点により引き分けとの結果になった




