凡人と親睦会
「では十二の王剣達を軽く紹介しよう」
騎士王はそう言うと、右手前の人物を掌で指す
「十二の王剣・賢知の剣、トリエル・アイアンベルデ」
ご紹介預かるトリエルは、席を立ってじっと凡次達を一瞥すると、右手に持った本を閉じ、ボウ・アンド・スクレープをかましそのまま口を開く
「宜しくお願いします」
「気取んな、死ね」
いきなり天パーなボサボサボーイに水を差されたトリエルは、額に怒りマークを浮かべながらもなんとか堪えると席に着く
「十二の王剣・替刃の剣、ゼサム・アゲルヴィア・フォン・ウィンザー=アトリエ」
随分長い名前の女性はトリエルが作ったなんか立たないといけない流れを無視…、というより気付かずに座ったまま口を開いてしまう
「宜しくな、ゼサムでいいぞ」
豪快な女性は赤色の装飾が目立つ鎧と共に、屈託の無い笑顔をこちらに輝かせる
「十二の王剣・長巻の剣、ダルク・フィリアス」
俯いたままのダルクは、湿気の籠もった暗い雰囲気をジメジメと漂わせながら口を開く
「こんにちは…」
こちらへ向けた挨拶は、聞こえるか聞こえないかギリギリのラインを攻めるような声量で、聞いた者の心の闇が深くなる声だった
「十二の王剣・短巻の剣、シャンヒ・フィリアス」
シャンヒは暖かい日差しのような明るい雰囲気を漂わせ、ダルクの放つ湿気を相殺しながら口を開く
「兄さんもっと明るく、折角の新入りさんなんだし」
シャンヒは常に皆へ笑顔を向けており、それはいいのだが常に笑顔なのでシャンヒの瞳孔が見えず、凡次は前が見えているのかな、とか心配していた
「十二の王剣・異世の剣、飢島篤士」
トリエルに水を差した先程の天パーボサボサボーイに掌が向けられる
そして、そんな彼は一部の方々からかなり睨みつけられており、恨みを買っている事が容易に伺える
(!異世界人もいるのか…)
「こっち見てんじゃねぇよ、殺すぞ」
飢島は舌打ちをしながら鼻筋を立て、顔を逸らす最高の最低ムーブをかます
凡次は過去一年で異世界人と少し接した経験から、異世界人全員に共通するこういう態度は慣れているのか、少し余裕な感じを醸し出しているが、でもやっぱり怖ぇなと少し怯えてしまっていた
「十二の王剣・高貴の剣、フィシェル・アンジャ=バジャス」
フィシェルは高慢ちきと着席して、不満を訴えるかのようにフンッと鼻息を立てる
鼻息を立てた反動で、たわわに実りシャツをはちきらんばかりの腹がコートを退けて上下に揺れる
「また愚猿が分不相応の位を与えられる、ふざ…」
「十二の王剣・照星の剣、タルトル・ウェイン」
フィシェルの言葉を遮って王は紹介を続ける
恐らく、これ以上この場を罵り合いの場にしたくなかったからだろう
しかし、唯一発言を遮られた本人は、なんで?という哀愁の籠もった訝しげな顔を浮かべている
「宜しく!あとフィシェル!あまり王を困らせるなよ!」
タルトルは全身を鎧に包み、声すら兜の中で変声するので、その正体は何も掴めないが、そんな中でもタルトルから来る何か暖かい光を凡次は不思議に感じていた
「十二の王剣・良妻の剣、ナザリト・アーシャ、続けてナザリト・イーシャ」
先程までは見えていた二人の姿が見えず動揺するが、王の呼び掛けにより一人の男性の両太ももから腕が生えてきた
「ヘイヘイ〜宜しくボーイ達」
突然消えた女性二人、二つの右手が両太ももから生えた男性の困り顔、これらを見るに消えた女二人は男性の太ももを枕にしているのだろう
「十二の王剣・最上の王剣、ナザリト・アルフォンス」
沈黙が続く、両太ももから二つの右腕が生えたまま、男は目元を暗くして黙り込んでいる
「…あの……」
切り込んだ、周りは両太ももにどう言及するのかを聞くため耳を離さない
「………家の妻、が…、申し訳、…ございま、せん…」
言葉絶え絶えに語る詫び言に、周りは思う
可哀想
「いや、別にいい…」
王はせめてもの気を使う、一通り十二の王剣を紹介し終えて、さっさと別の話題に移してやろうという時、ゼサムが切り込んだ
「アルフォンスは口下手だなー、本当に」
こんな状況で空気を読まず、話題の切り替えを阻害し、恥を深掘りするゼサムに姉の騎士王はテメェ大概にしろよ、と憤りを覚えていた
「……」
アルフォンスは黙り込んで遂には俯いてしまった
「いーや、アルフォンス様は口下手なんかじゃありません。ちょっと無口でクールなだけです!」
「そうです!そうです!」
どの口がとアーシャとイーシャの姉妹コンビもとい、元凶二人は同調しながらゼサムへ発言
「ッチ!売女共が…」
空気を読まない発言に憤ったのか、それとも普通に貶しただけなのかよく分からない発言がフィシェルによって場に出て更に混沌と化す
「はぁ!?この前もそうだったけど、おデブちゃんちょっと調子乗り過ぎじゃない?!」
恥を上塗りどころか、ペンキをぶちまける
「静粛に、円卓内とはいえ王の御前と心得よ」
この場で唯一席に座れていない魔法使い、流石にこれ以上は、と杖先を床へ落とし、カンカンと音を鳴らす
「感謝する。マーリン」
本当によくやったという騎士王の表情を、マーリンは慎んで受け取る
「この魔法使いは我の側近、アンブローズ・マーリンだ」
粗方の紹介を終えた騎士王は立ち上がり、凡次へ指を指す
「さて、紹介は以上、早速だが親睦会へ移ろう」
「親睦会?」
首を傾げる凡次に騎士王は不敵に笑む
「まぁ付いて来い」
***
騎士王達は五つの闘技場の内、五角形の一番上に値する闘技場一へと入る
中は砂の地と周りを囲う観客席、中央に着くと、マーリンがボールとゴールを創り出し、セットすると、王が凡次達に説明する
「今から行うのは異世界にあるサッカーという競技だが、ルールの知らない者は前に出ろ」
意外なマーリンの発言に凡次は驚く、てっきりここで殺し合えとでも言われると思っていたので、サッカーなんて平和なスポーツだけでよいのかと安心した
「よく分かりません!」
γは声を張り上げ、無知を高らかに宣言すると、騎士王はγに目線を合わせて説明する
「2チームに分かれ、時間内に相手チームのゴールへ多くボールを入れたチームの勝ちだ」
「なるほど!ありがとうございます!」
元気のよい返事を確認したマーリンは説明を続ける
「そして、異世界のサッカーとは違い魔法の使用可能というルールと、殺害禁止及び重傷になりえる魔法の使用禁止が付け足されている」
正直なんとなく分かってた、という顔で凡次は空を見上げてその深さ広さに胸を打っていた
「さて、チーム分けだが…」
そんな凡次は誰にも微塵も気づかれず、こと残酷にマーリンがチーム分けを考え始める
「…丁度十六人、では、八人でチームを組む」
先程の恥辱の傷が癒えたのか、アルフォンスが進言する
「…マーリン殿、失礼を承知して進言するが、王のいるチームには何かハンデをつけた方がいいのでは?」
そんな進言を聞いたマーリンは青筋を立ててアルフォンスを睨みつける
「そうか、貴様は王に重りをつけようと?」
あー面倒くさ、と主張するかのような弛んだ表情筋に加えて溜息をつく
「いやそうではなく、今までの親睦会でも、王のいるチームが圧倒的だったではないですか」
マーリンは騎士王の方を見ると、顔は俯いて、静かに共感の様相を示していた
「…、分かった、ハンデの内容を考えろ」
「御意」
少し顎にお手つきをしながら考え、考えがまとまったのか口を開く
「では、王のみ身体強化の魔法をかけないというのは…」
「……まぁ、いいだろう」
マーリンは不服そうな顔だが仕方なく進言を聞き入れると、チーム分けについて話を続ける
「このゲームで最も大事なポジション、それはサポーターだ」
「なぜならサポーターの身体強化有り無しでチームの総力は大きく変わる、よって身体強化の使える魔法使いは均等に分けたいので前に出よ」
プルエルが前に出る
「この妖精と他には……いないと、では私とこの妖精が二チームにそれぞれ入るとする」
「チーム分けは以下の通りだ」
そう言うと、マーリンは紙とペンを空に浮かべ、ペンを走らせると、全員の手元に配った
紙の内容には以下の通りが書いてあった
ーー騎士王チームーー
セルアト・ヴィリアン・フォン・ウィンザー=アトリエ様 マーリン トリエル ダルク シャンヒ 源蔵 γ 飢島
ーーゼサム公チームーー
ゼサム公 プルエル 凡次 アーシャ イーシャ アルフォンス フィシェル タルトル
「では、皆の者ポジションにつけ」
二チームはそれぞれ固まって作戦を練る
ゼサムチームの作戦会議
「フィシェルキーパーな」
フィシェルが小さく舌打ちをする
「まぁまぁ、お前守り得意だろ?」
「分かりました……キーパーとして貴方達を後ろから見下しておきますよ」
「じゃあとは適当で」
ゼサムチームはテキトーな作戦会議を終える
「作戦を、まず騎士王を花形のフォワードへ…」
「待てや、そいつがどんだけ強いか知らねぇが、身体強化無しでフォワードが務まるのか?身体強化の有り無しで能力に3倍くらい差が出るの分かってんだろ」
源蔵はおいおいと忠言する
「口を挟むな、ロリコンめ」
マーリンは見下すように罵る、源蔵は唖然とする
「では各々王がやりやすいポジションにいろ、以上」
源蔵の忠言を無視し、マーリンはすたすたと歩いていってしまった
(…あいつ、いつか殺す)
「すまない…」
騎士王が謝り、まぁまぁと心の中の矛を少し収める
二チームがそれぞれ位置につく、キックオフは騎士王チームから
開始のホイッスルはマーリンの炎魔法、空に上げられた炎弾が昇る
それと共に騎士王のつま先がボールを穿つ、それはもはやボールの速さではなく、閃光の如く
騎士王の穿った閃光は人と人との間を華麗にすり抜け、キーパーが気づいた時にはゴールのネットは半壊状態、ここで凡次は思った
(…僕死んだ)




