龍の国、出国
凡次一行はミョルニルという看板のある店に入る
「らっしゃい!」
ガルドの三兄弟の内一人グルドがカウンターに立って、しゃあしゃあと声を出す
「グルド、ガルドを」
「お、例の件か」
「ちょっと待ってろ」
グルドがカウンターの奥へと入る、暇なので凡次が店の内装をぐるっと見る、店内は入り口を頂点に三角形へ広がっており、両端には座る場所や雑誌、武器のカタログなどが置いてあって随分近代的、目の前にカウンターがあり、ここで受付して店で暇を潰せということだろう
(何度か武器の調達とか調整で来たけど、やっぱ落ち着くなここ)
事実、ここは庭園の鍛冶屋と呼ばれていて、雑誌を読みながら聞く、鉄を叩く一定のリズムがししおどしのようで落ち着く上で、確かな腕を誇っている
「アニキ!凡次達来たぞ!」
グルドの声が工房を超えてこちらへ響く、暫くしてガルドとグルド、何故かギルドも出てくる
「…儂は一年間、凡次を認めた日から陰で魔王を殺す刀を鍛造してきた」
「勇者に合う刀を、これも違うあれも違うと幾つも試作を鍛造し、漸く辿り着いた儂の最高傑作」
そういってガルドは長箱をカウンターに乗せ、蓋を外し、その刀と相まみえる
凡次の素人目でも分かる明らかな業物、刀身は見事な弧を描き、刃文は揺らがず平地と平行に、刀全体に均等に光が入っている、何より刃縁が細く全身で薄紫に輝いているのだ
「この刀は鍛造過程がちと特殊でな、通常刀は炭素の量で硬さが決まるんじゃが、折り返し鍛錬という過程を経て炭素が燃え、柔らかくなってしまう、かといってこの工程を省くと炭素が刀に均一に広がらなかったり、不純物を絞り出せなくなる、だから実戦刀の折り返し鍛錬は2,3回程度で終わる」
「じゃがこれでは魔王を倒す刀など到底出来ん、じゃから魔法を使うことにした」
「要は炭素が燃えなければいい、つまり炭素が燃え尽きるギリギリで燃え尽きてしまう炭素を分子レベルで冷やし尽くす」
「これを永遠と続け、20回の折り返し鍛造を行ない、極限まで不純物を絞り出し、かつ硬さも失わず、刀を鍛造できた」
「21回以上はギルドとグルドと他の名匠の協力があっても、魔力量と集中力の問題で無理じゃった」
(…転生して1年、未だにこの世界のレベルについていけない)
「えっと…この紫色に輝いてるのは?」
「鍛造の過程で魔力を用いたからその影響じゃな、品質に問題はないから心配するな」
「これを、僕に?」
ガルドが頷く
「オーバースペックすぎません?」
「魔王を倒すのにオーバーもクソもあるか」
「ガルド、同じやつあるか?」
「あるわけないじゃろ、もう作る気力が湧かん、疲れたんじゃ」
「金は湯水のように溶ける上、分子レベルで魔法を操作、鍛造過程で魔力顕微鏡使うのも始めてじゃし、もう無理じゃ」
ガルドは血の気のない顔を浮かべて、つらつらと愚痴を並べる
「えっと…ちなみに名前は?」
「名前は龍桜」
「この刀にピッタリじゃろ」
「…えぇ」
「ともかく、いつまで箱に納める気じゃ?」
「あ、じゃあ触らせて頂きます」
凡次が龍桜の柄と刀身を持って上げ、固まる
「はよ握らんか」
「いや、2000万って聞いてビビっちゃって」
「これからブンブン振り回すのにその程度で苦労してたらどうする」
凡次が恐る恐る右手を柄に回して握る
「中々様になってるの」
「こうして見れば、金を湯水のように溶かした甲斐があった」
「ほれ、鞘にしまっておけ」
ガルドに鞘を手渡され、龍桜を鞘に納める
「あの、ありがとうございます!」
「何、儂は魔王を殺す武器を作った名匠になりたかっただけじゃ、気にするな」
「じゃから必ずしっかり倒して帰ってこい」
「はい!」
「じゃあ行くか、転移陣へ」
「儂らも見送りに行くぞ」
凡次ら6人はミョルニルから出て、先頭のプルエルについていく、暫くすると、魔法研究所に着く
「あ、ここにあったんですか?」
「えぇ、ここの実験室1ね」
魔法研究所に入り、実験室1と書かれた札がある部屋に入る、中には見覚えのある青色の転移陣が描かれていた
(これ、あのクソ女神が僕をこの世界に送った時の転移陣と同じ形のものだ)
「じゃあ2人とも陣の中に」
凡次らは転移陣の中へ入り、ガルド達と目を合わせる
時計の針は9時58分を指しており、あと2分でこの国から凡次らは出国する
長針が59分を刺すと転移陣が輝き始める
「凡次、源蔵、プルエル」
「必ず無事に戻ってこい、儂らはいつでもお前さんらの帰りを待っとる」
「ありがとう、ガルド」
「礼はとっておけ」
そう言って笑うと、ガルドは両手の平を合わせる
「主らの旅に、龍の加護があらんことを!」
ガルドが祈祷を捧げると、転移陣と凡次達が消える
「行ってしまったか…プルエル」
「…兄さん」
「なんじゃ?」
「プルエルって誰だ?」
グルドはそう言葉を放つ、口元に緩みはない、冗談ではない、それは、只の1つ生まれた純粋な疑問だった
***
宵闇の森で少女は笑う、歌い、踊り、高揚を隠さない
「今日もかっこいいなぁ…私の騎士」
少女は手製の転移陣へ入る
「源蔵様、今喰べに行きます」
そして少女は騎士の国へと転移する




