凡人と龍
(一難去ってまた一難、いや十難ぐらいか)
(これならオークと戦ってる方がマシだった)
(いや、どうせ殺されるならオークより龍の方がいいな)
凡次は半ば生きることをあきらめていた
血を流しすぎて視界が霞んでいるうえ、体も動かせない、何より
目の前の強大すぎる敵に、自分の行った一年間程度の努力など全て塵芥に過ぎないと思い知ったからだ
どれだけ修行をしても見えない強さの天井、測り知れない魔王の強さに自分は絶対に辿り着けない、越えられないと、今心身に刻まれてしまったのだ
「結局凡人が何やっても無駄か」
「俺は結局なにも成し得られなかった」
凡次がこの世界に転生してきてから今まで接した人たちとの思い出が湧いてくる
凡次は密かに泣いていた
「沢山の応援してくれた人がいた」
「誓った」
「なのにこの様」
「笑えるよな、そこの蛇擬きよ」
凡次は腕を広げ大の字に地に寝そべった
「さっさと殺せよ」
龍は目前の男に向かい爪を振り下ろす
凡人は目を閉じ定めを受け入れる
…
「もう死んだのか?」
凡次が目を開けるとそこにはモノクロの世界が広がっており
色のない龍の爪が自分の体を潰そうとしていた
だがそんな世界で唯一色を持つ物体が凡次の視界に入る
それはプルエルから渡されたb.mノートだった
「…は?」
「…見た感じ時が止まってる…っぽいな」
「体は動かせないか」
「原因はこのノート…だよな」
「b.mノート、プルエルさんに取り合えず常に持っておけって言われたから持ってたけど」
「というか今まで中身を見ようとしても開けなかったのに開かれてる」
凡次がb.mノートに書かれてあることを読む
「凡人が魔王を倒す方法1」
「殺せば勝ち」
たったそれだけ、何か強力な魔術の使い方や龍の弱点が書いてあるわけでもない
殺せば勝ち、それだけの言葉だ
これを見た凡次は思い切り笑った
その笑いはノートの内容のせいではなく
自分が難しいことを考えすぎて単純なことを忘れていたことを自虐する笑いだった
凡次がひとしきり笑った後、口を開く
「そうだった、勘違いしていた」
「何を難しいことを考えすぎていたんだろう」
「別に相手の実力に辿り着く必要も、ましてや超える必要もない」
「俺とこいつの戦いにルールがあるわけでも、レフェリーがいるわけでもない」
「ただ殺すか殺されるかだけ」
「そこに凡人天才の差は無くて、ただただ結果のみが在るだけ」
「本当情けない」
「殺されるのに殺し返さないなんて」
「それじゃあ殺せる魔王も殺せやしない」
凡次が言い終わるとb.mノートは閉じられ、凡次のベルトのポケットへ戻る
そして世界に色が戻り始め、時が動き出す
【抜刀:斬銅】
凡次が龍の爪を切り落とす
そのまま落ちてくる爪を躱し、自分の背中に刺さったまきびしを抜いて杖を持つ
【炎魔法:炎よ燃え上がれ】
自分の傷口を魔法で焼いて塞ぐ
「…ふぅ」
ポケットからクナイを取り出し、龍へ投げつける
【風魔法:風よ吹き荒せ】
クナイの速度を風魔法で上げ、凡次も上空へ飛び、龍の真上へと飛ぶ
龍が上空の凡次を殺そうと体を垂直に態勢を変える
起爆札の先端を刀に張り、構えの姿勢をとる
【抜刀:瞬間頸動】
龍の体を回るように切り下り、着地する
だが龍は以前凡次を殺そうと襲い掛かる
「おかわりだ」
【炎魔法:炎よ燃え上がれ】
龍に向かって炎が放たれ、切ったときに龍の体に張り付けられた起爆札が爆発する
龍は燃え盛り、爆煙が巻き起こる
【水魔法:水よ纏まれ】
人並みの大きさの5つの水の塊を燃え盛る龍の元に密着させる
【炎魔法:炎よ燃え上がれ】
5つの水の塊に炎魔法を当てる
瞬間水蒸気爆発が起き、蒸気が辺りへ漏れ出す
そして凡次がただ立ち尽くす
…
ひとしきり蒸気が晴れると
目の前に現れたのは龍だったもの
自分を殺そうとしたもの、絶望させたもの
そして、遥かに己を成長させたもの
地に伏せ、生命の輝きが殺されていた
それを見た殺したものは両手を掲げる
まるで演奏終わりの指揮者のように
勝利を高らかに掲げた
そして殺したものもまた地に伏せる
(魔力切れ…死ぬ)
(まぁ、プルエルさんと源蔵さんがいるから大丈夫か…)
そこで凡次の意識は途絶えた




