第18話 遭遇に咲く邂逅の涙を拭わんと…(伍連)
『あなたは、いつかきっと選ばなくてはならないでしょう。』
「どうしてですか?どちらも大切だったとしても?」
『ええ。大切だからこそ。』
「でも、選ばなかったものにとっては私が捨てたという事実しか残らないのでは?
そうではないのに。どれほど大切か、言葉にはできないほどのこの真実を伝えることすら、できないのですか?」
『それがこの理との契約である限り、それによって得るものをあなたが欲している限り。あらゆる真実は封印される、それが
世界を壊さない唯一の定義なのですから。』
「定義を超えるからこその定義、ということですか。」
『そう、真実は封じられることで事実が安穏という膜に抱かれ、あらゆる世界は守護に満たされる。
さあ、今は思う存分生きなさい。それが奇しき薔薇をその慈愛の雫によって混沌の闇から掬い上げる…の、か…彼方の答えは誰にも…』
ぱあっと場面に差し込んだ光が彼女を包むかのようにその瞬間を終わらせた。
「はっ。」
伸ばした手の先が空をつかもうとしたその自分の動きで彼女は目を覚ます。
寝台に身体を起こした彼女はつい今ほどまで自分が在った夢の欠片をかき集めようと脳裏を探るが、頭にズキンという痛みが走り、またしても夢の欠片は彼女の中で霧散してしまうのだった。
はああっと大きなため息でその憂鬱を吹き飛ばし、彼女は寝台から立ち上がった。
彼女は窓辺に立つとシャッーとカーテンを開いて太陽の光を浴びた。
ああ、温かいなと全身がほうっと安堵するかのようだ。
コンコンという音と共にガチャリっと扉が開いて少女のような女性が溌剌とした笑顔で部屋に入ってきた。
「おはようございます。姫様。もう起きていらっしゃったのですね。ご準備が遅れて申し訳ございません。」
「いいえ。いつもより早く眼が覚めてしまったの。ルレリはいつものように時間通りよ。」
「今日のご予定はいかがなさいますか?姫様?」
「そうね。気になっていることがあるから。今日は私がルレリを借りていいかしら?」
彼女は侍女ルレリの装いでいつものように黎明宮の門を通り抜けて街へ向かう。
帝国首都ヴィデリクスの街を慣れた足取りで歩く彼女は目指す場所へ辿り着いた。
彼女のノックに応えるように開いた扉の向こうから現れた男性が彼女に礼を取って彼女を迎え入れた。
「相変わらず、突然の訪問がお好きでいらっしゃいますね。」
丁寧な物言いではあるけれど、少し砕けた口調には彼らの付き合いの長さが窺えるようだった。
「少し急いでいるの。この前お願いした件は調べてもらえたかしら?」
「ええ。今も偵察中ではありますが。」
「そう。とりあえずは今の時点までの調査の結果を聞かせてください。なんだかこの件は急いだ方がよいような気がするの。」
「ああ。そうですね。確かにこの令嬢はこのままでは喰われ尽くされることが予想されますね。」
「そんなに?確かに彼女の家門は取り立てて目立つことはないけれど、ベルドゴン男爵は誠実と堅実を体現したかのような、と前に貴方の調査書にはそう綴ってあった気がするのだけど?」
「おお。よく覚えておいでで。ですが、それはもう何年も前の話です。時流の非情さというものは世の常ですからね。」
「そう。実はね、先日その令嬢に遭遇したの。」
「ああ。そうですね。デビュタントの舞踏会で、ですね。」
「?知っていたの?全く、あんな場所にまで貴方の手の者が忍んでいるとはね。油断も隙もないったら。」
半ば呆れた表情を向ける彼女ににっこりと笑顔を差し出しながら、彼は大袈裟なほど丁重なお辞儀を返した。
「お褒めに預かりまして光栄の至りに・・・」
「まあ。そんな貴方だからこちらも信用して仕事を任せているのだけどね。」
彼女は軽く手であしらうように彼を遮る。
そして彼女は彼の瞳をじいっと見つめると今度は真摯な口調で言葉を放った。
「全て教えてちょうだい。包み隠さず、全てを。」




