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第17話 遭遇に咲く邂逅の涙を拭わんと…(肆連) 

丁重なもてなしを受けながら、信じられないほど美しい場所で、心に清浄さを注ぎ込むかのようなお茶を口にしながら、ディラリアは自分が夢の中で揺れているだろうかとさえ思ってしまう。

こんなに穏やかな気持ちでいられるのは、本当になんて久しぶりなのだろう。

緊張で凝り固まっていた体中の筋肉さえゆっくりと解れていくかのようだった。

少し余裕の出た頭で彼女が次に思ったのは。ここに現れるのはいったいどんな人物なのだろうかということだった。

社交界の噂に疎い彼女ですら、彼女が居るこの場所がおそらくはこの国の貴婦人達の羨望の的であるあの館なのだということを察していた。



突然届けられる招待状。

そしてその場所を訪れることを許された貴婦人達は誰もがうっとりとした口調で呟くようにこう言うのだ。

「”秘”されたことなの。」と。

その場所がどこにあるのか、そこで何が行われているのか。すべてを”秘”することができる者だけが館の恩恵に預かれるのだと。


そして彼女たちは満面の笑みを浮かべながら、それ以上決して口を開くことはない。

そんな彼女たちの周囲の誰もが多少の苛立ちでもってじっとりと彼女達に重い視線を送りながらも、結局は切ないほどの恋慕のため息をつくのだ。

それほどまでに羨むほどの圧倒的な何か、そんな”美”をもって”秘された館”の在り方は証明された来た故に。

そして今、社交界の貴婦人達の誰もが次の招待状が自分に届くことを切々と夢見ているのだった。




そんな場所に、なぜ私が招待されているのだろう?

デイラリアには摩訶不思議な現象に巻き込まれた自分すら想像できてしまうのだが。


ガチャリ。ドアノブの音がしたかと思うと、扉が開く。


「お待たせしてしまってごめんなさいね。」


そう言って颯爽と部屋へ入ってきたその女性は、軽やかな足取りでディラリアの前に現れた。



自分の前に現れたその女性に視線を向けたディラリアは手に持っていたティーカップを落としそうになる。

「あ、あなたは。」


その女性は、にっこりとした笑顔をディラリアに向けると、唖然として自分を見つめるディラリアに向かって声をかけた。


「そのお茶はお気に召したかしら?」





「あの。あの時は本当に」

たったいま受けた衝撃から自分を取り戻して言葉を探すディラリアに向き合ったその女性は気遣うような表情でこう言った。


「あれからお元気でいらっしゃいましたか?」


「あ、あの。わたし、私は」


元気ですと、言わなければと理性の声がする。

だが、どうしてもいつものように感情を押し殺して笑えない。

どうしてだろう。心が私を揺らそうとしている。

ディラリアは自分を見つめるその女性の瞳の奥に揺らめくものが、ディラリアを思いやっている感情そのものなのだと気づいた。そして彼女の頬を、つうっと涙が零れ落ちる。


その女性はすっと立ち上がるとディラリアの側に寄り添うように座り、ディラリアの両手を包むこむようにそっと握りしめると、片手でディラリアの背中をポンポンと優しく撫でるように触れながら囁き続けた。

「大丈夫。大丈夫です。もう何も心配しないで。大丈夫なのですよ。」そう言い続けたのだった。




彼女は自分の側で嗚咽を堪えようとしながらも、彼女の「大丈夫」という言葉で決壊した感情の波に攫われるかのように泣き続ける少女のようなこの男爵令嬢が不憫でならなかった。


「全部、吐き出してしまって。苦しまないでいいから。心を澱ませないで。

貴女を傷つける者から受ける毒で自分を傷めてはダメ。心の膿ませるものを全部捨て捨ててしまうの。」


彼女の言葉にディラリアの涙で潤んだ瞳が更に大きく開かれて、ディラリアはじいっと彼女を見つめながら、コクンコクンと何度も頷きながら、そしてディラリアはずっと、相談したくても誰にも話すことができなかったこと全てについて話し始めた。






「貴女が全てを負う必要はないわ。」


彼女はディラリアにそう言い切った。


彼女、そう、招かれた魅了の館で再会したのはあの夜会でディラリアを救ってくれた“騎士さま”ではなく、美しい女性レディである彼女。


そして彼女はディラリアが泣きながら追い詰められた自分の現状を語り尽くした後、ディラリアをぎゅうっと抱きしめてそう言ったのだ。


「でも、でも私はお父様を、領地の民たちを捨てることができないのです。だから」

そう、だから、モルギの提案を受けることしかできないのですと、ディラリアは言葉にはできないまま心の中で自分自身に向けて呟く。


「ええ。分かっているわ。ディラリア嬢。貴女は御父上とベルドゴンの領民が救う為に自分を捧げようとしている、そうよね?」


コクンとディラリアは頷いた。


「そう、ならば貴女を私にちょうだい。」


「え?」

思いもかけなかった彼女の言葉にディラリアは驚きを隠せない。


そんなディラリアににっこりと微笑むそのあまりにも美しい黄金色の瞳は真っ直ぐにディラリアを射抜く。

彼女はディラリアに言葉を紡いだ。


「ディラリア嬢。貴女はここから消えてしまえばいいのだわ。ね?」

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