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第11話 その指数にて咲くは・・・つきづきしい故にか・・・(弐連)

皇宮の大広間への扉が開かれた。

大広間に広がる熱の籠った視線と囁き声を一身に受けながら、デビュタントの令嬢達が玉座に向かって列になって進んでゆく。



デビュタントの服装の規範は”白”。

それ故に金色の刺繍を一面に浮かび上がらせた白のドレスを纏うレディ、ダイヤモンドを散りばめた豪奢な装いに身を包んだレディ等、各々の家門がその権勢をかけて娘のデビュタントを飾ろうとする。

まるで序列があるかのように列の先頭の娘達ほど衣装は金色に近いほどの豪奢さと、大きすぎるほどの宝石に彩られていた。

彼女達の十代半ばの幼い顔には貴婦人のような化粧が施され、自分に自信を持った者特有の堂々とした立ち振る舞いが彼女達を既に何年も社交界に君臨しているかのような姿に見せていた。

列の後ろにいくほどシンプルな白の装いの令嬢となっていく故にか、人々の視線はもっぱら前方に注がれていた。

そして、令嬢達一人一人が玉座の前にて皇帝、皇后、皇太子殿下、その他の皇族一家にカーテシーを捧げ、自分の名を告げる、いつもと同じようにデビュタントの式が始まった。



「ボルギィッタム公爵が長女、イラザリリス・モラボルエ・ボルギィッタムでございます。」


金色のドレスはデコルテを意識した大人びたデザインで、その上に大粒のダイヤモンドを縫い付けることでデビュタントのドレスの”白”の規範を越えていないという根拠になっているのだと、大広間の至る所でその噂が飛んでいた。


頭頂にきっちりと結い上げられた赤茶色の髪にダイヤモンドのティアラが、耳元と胸元にも大粒のダイヤモンドが光輝いている。吊り上がりぎみのまなじり、くっきりとした藍色の瞳に浮かぶのは高慢と紙一重ともいえるほどの自信の表れのように見える。


デビュタントを迎える以前、幼い頃より既に帝国一の美貌と囁かれ、令嬢としての作法全般においても完璧な振舞いと称されてきた公爵家の赤い薔薇。

彼女は生まれた時から公爵家の唯一無二の姫として家族の愛を受けて育ち、社交界デビューを迎えようとしている今は自分が帝国で最も高貴な女性であるという自負に包まれて生きていた。


故に、今日のデビュタントの大広間に入場した時から、そこに集う貴族達の称賛が自分に向けられていることは彼女にとって当然のことであり、玉座に向かってカーテーシーを捧げた彼女は皇帝陛下、皇后陛下からお言葉をいただいて礼を取った頭を優雅に上げる。

そう、そうしてその瞬間、玉座の皇太子殿下が自分の美しさに釘付けになるのは想定内のことだと思いながら、彼女は彼に向かってにこやかな笑顔を贈った。

だが、彼女の視線の先の皇太子の瞳は全くといっていいほど彼女に向いてはいない。

彼女は次の令嬢に場を譲る為に玉座の前から去るが、動揺を隠せないまま皇太子の姿から目を離せないでいた。




皇太子イマグヌス・プリムポルタス・マリディクトベリシュ。


幼かった頃のイラザリリスが知っている彼は穏やかな気質で女性にも優しく帝国の貴公子と称されていたがどちらかというと華奢な体格の皇子であった。

だが、アカデミーを卒業して帝国に戻って来た時には、彼は剣術では騎士団を負かすほどの強さを、政務では大臣たちを負かすほどの知識と論述の鋭さを、そうして女性に対しては紳士的ではあれど、どちらかというと女性賛美のほうに傾きがちな恋多き男性へと変貌していた。


そう、あの方は美しいものがお好きなはず。

この帝国で私より美しいものは存在しないのだから。

あの方の心は私のもの、そう、そうに決まっているの。

お父様もいつも仰っているもの。

私こそが、この国の皇太子妃にふさわしいと。


イラザリリスは自分の心に呪文のように自信に満ちた言葉を反芻させながら、やっと自分を落ち着かせると、皇太子に見入る。


少し青みがかった金髪は彼の顎の横辺りにふんわりと流れ、すっきりとした鼻筋の両横には薄紫色の瞳の奥には、大広間の照明の光が反射するかのようにゆらりと揺れながら煌めいている。


彼は次から次へと礼を取る令嬢たちの群れをにこやかな笑顔で見守り続けているが、その崩れない笑顔からは何の感情も見いだせない。

とても、とても業務的なその微笑みはこのデビュタントの挨拶が終わるまで続くのだろうとイラザリリスは思ったのだった。そう、私より彼の目を引く令嬢などいるはずもないのだからと。


玉座に礼を取る令嬢の列ももう残り少なくなってきた。

イラザリリスは次のことを夢想し始めていた。

今夜のファーストダンスを、皇太子殿下と踊れる、かしら。

お父様はきっとその機会を作ると言ってくださった。交渉ごとなら誰もお父様に敵わないはずだわ。そう、例えそれが皇太子殿下でも。だから、きっと私は彼とダンスを踊るの。そうして彼は私を見つめて、私の美しさを讃えて・・・。


妄想に近い意識が少しだけ遠くを漂っていたイラザリリスは、大広間の騒めきに気付く。

なに?

なんなの?



大広間にどよめきが広がっているのが感じ取れた。


イラザリリスの視界に皇太子殿下の微笑みが崩れ、まっすぐに向けられる真摯な眼差しが映る。


彼はいったいどこを・・・?とその視線の先を追う彼女の目に飛び込んできたのは衝撃そのものだった。


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