第6話 予兆
なにか、最近感覚的にはちきれそうだ。
なんとも古傷をえぐられるような、はたまた不安に似た喜びなのか。それは定かではないが、何か存在しないものが私に語り掛けてくるような、そんな感覚に襲われるのだ。
在り得ないものが、在り得てしまう恐ろしさをいま肌ににじり寄られて、鳥肌が止まらない。もう一週間後には、東京での一人暮らしも始まるし、新たにまた学校に行かねばならいというのに。どうすればよいか、それは一向にわからずじまいだ。
最近は、住む場所も変わってしまうことなので、昔お世話になった学校や幼稚園の先生方に、近況報告を兼ねてその門をたたいているのだ。
機能は、小学校の先生に会いに行ったし、明日は幼稚園の先生に挨拶に行く。幼稚園は忙しいので、子供たちが帰った後の夕方ごろに挨拶に行く予定になっている。なので、特に忙しいというわけではないが、先に行ったように、私は騒めいている。どうすればよいのかわからずにたじろいでいる。なぜなのか。よくわからない。誰か助けてほしいものだ。
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次の日、私は目が覚めると昼の十二時を回っていた。もうこんな時間になってしまったかと、体を起こすと、例にもれず片頭痛であった。いつも長いこと寝ると片頭痛に見舞われるのだが、今回はだいぶキツめである。どうしたものかと、痛み止めを飲んで少しスマホをいじっていると、母が買い物から帰ってきたのか、玄関のドアが開いた。
ドスっ、という重い音と同時に、ビニール袋特有のクシャッという音が響いた。母はいつも、スーパーで無駄に買いすぎるのだ。以前には、明らかに家族のだれも食べないであろう、コーヒーチーズを買ってきた。チーズ好きも、コーヒー好きもいない中で何故に買ってきたのか不思議で仕方がないが、それも愛嬌ということにしておこう。
玄関の先から、もう一袋パンパンに食材が入ったスーパーのビニール袋を持った母が、
「今日五時から行くんでしょー?私も行くから、しっかり菓子折り忘れないように準備しとくんだよ」
と大きな声で言ってきた。買い物袋を置いてから言えばいいものを、母はいつも思い立った瞬間に口が動くタイプの人間なのだ。
母が買ってきた昼ご飯のお弁当を食べながら、幼稚園でどのように先生と顔を向けて話せばよいのかと考えていたら、あっという間に四時過ぎになってしまった。