第4話 学生時代③
次の日も、その次の日も、ずっと映画を撮り続けた。限られた三時間というタイムリミットをフルに活用して、毎日とり続けた。そして、そんな生活をずっとやり通して、卒業の時まで来た。図書館で演出の本を借りたり、映画論の本を借りたり、映画の基礎を自ら作り上げた。
また、アニメーション映画の製作も志していたため、アニメーションを制作するにあたって、画の立体的な崩れを防ぐためにデッサンも並行して行った。デッサンは、母に見られてしまった時があったのだが、知的なイメージがあったのか、案外肯定的に捉えてくれたため、母が帰ってきてからも練習することができたのだ。
母が言った
「トオル、明日で卒業ね。」
そう、明日は卒業式なのである。
「そうだね母さん。」
私はこれしか言えなかった。とても大きな罪悪感と後ろめたさと、不安とが押し寄せ、母の目など見て面と向かって話すことなどできなかった。ただ、ここを卒業すると一か月後には、一人暮らしが始まる。それまでの辛抱だと、ずっと我慢していたのだ。
「母さんは、ずっと仕事して家のこともやってくれて、すごく感謝しているよ。」
そういうと母は
「そんな白々しいこと言わないでよ。あなたそう思ってないでしょう?」
と、おどけたように言った。ああそうか、母さんはわかっていたんだ。私が部活になんて行っていないことを。映画ばかり見ていることを。全部わかっていたのか。
そう思うと途端に恥ずかしくなって、うつむいてしまった。余計に合わせる顔がない。
「母さん分かってたの?」
すると母さんは何も答えなかった。いつしか、レンジであっためていた唐揚げが、チーンという音と一緒に温まり、夕食の用意ができた。
さあ、ご飯にしましょう、と母が言うと、私と生活リズムが真逆の父を除いて、卒業式前の晩餐が執り行われた。
いつもの夜ご飯と一緒だったが、いろんなことが頭の中をよぎって、これからの不安も相まって、今までで一番印象に残った夜ご飯になった。母とそれから何を話したのか?それは全く記憶にない。ただ、その次の日の卒業式では、全く泣けなかったのを思い出す。