第18話 映画祭①
ネットでの出品から一か月がたった。
今か今かと待っていると、メールに通知が来た。その通知は、選考の通過を知らせるメールだった。この映画祭では、大量に送られてくる作品の中から、本選に進む作品を、選考で先に選ぶ仕組みになっていた。トオルは喜んだ。今まで自分の作品を評価されたことがないから、今まで感じたことのない、「自分の根幹を認められた喜び」を感じた。ただ、選考に通っただけではまだ序ノ口である。
選考に通った作品の制作者は、本選の日に大きな講堂での一般の人を招いての鑑賞会に呼ばれる。それは当然トオルの作品も上映されるのだ。そして、そこでその場全員の前で、審査員による審査の発表が行われ、結果がわかる。
本選の日は、ちょうど二週間後。会場設営は例年のことなのでずっとスムーズに進んでいるのだろう。
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本選当日、トオルは電車に乗っていた。なにせ金もないので車を買えず、電車を乗り継いで会場に向かっていた。トオルは近郊に住んでおり、会場は東京のど真ん中で行われるため、ナケナシの一張羅を身にまとい、会場に向かった。会場は、人でごった返しており、トオルは余計に緊張した。
「この作品楽しみなんだよねー!すでにインスタで噂になってたし。」
「生徒のみなさんついてきていますかー?人が多いので、できるだけ迷惑にならないように、はぐれないように注意をしてくださいねー」
「あなたの作品が早くうつされるのを見たいわ。楽しみ」
「俺の友達がここに上映されるらしいんだよ。あいつは昔から変な奴だったな!」
「バブーー。おぎゃー」
今トオルがいる場所は、ものすごくでかい会場の入り口なのだが、近くの学校の校外学習なのか、選考通過者の知人なのか、赤ちゃんか、多くの人が行き交っていた。正味、ここまで大きいと想定していなかったトオルは今までになく、おなかが痛くなる思いだった。
会場の中に入ると、これまた人がごった返していた。ただ、作品制作者ということもあって、裏口から係員の人が会場の中枢部に通してくれた。
裏の廊下を渡っている最中に、係員が質問をしてきた。
「どの作品の作者様なんですか?」
「『夢の中』って作品です。」
「え!?あの夢の中の作者??」
「ええそうデス。そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。」
「いやいや、もう審査員の間でとんでもなく話題になってましたよ。」
そんなびっくりすることを言ってきたので、
「え、それ私に言っていいんですか?」
「そりゃココだけの話ですよ。」
「はぁ。どういった感じで話題になってたんですか?」
そう聞くと、係員は口ごもるような様子で答えた
「いや、なんかね、唖然って感じでしたよ。何も言えない。それに、その後の審査員たちの興奮具合がすごかったんですよ。」
「というと?」
また聞くと、さらに口ごもるような様子で答えた
「評価が完全に二分したんです。」
「え?」
「素晴らしい傑作だという意見と、とんでもない駄作であるという意見がぶつかったんです。」
私は、歓喜した。映画は意見が二分すべきなのだ!それが自分の映画で起こったということは大変喜ばしいことであり、素晴らしいだけの映画なんてただの駄作だと私は考えていた。
「本当ですか。それは嬉しい」
「え?うれしい?なんで」
「あなたも映画を作ればわかります。」
こんな感じでスカした答えをかましたところで、制作者控室に着いた。なんと驚くことに、一制作グループに一部屋与えられたのだ。別に役者でもあるまいし、一緒くたに一つの部屋に入れればいいのに、だいぶ儲かっているのだなと思った。
「夢の中作者様、、、ここの部屋ですね!」
「いやはや助かりました。親切にありがとうございます。」
「いえいえ、では早いですが失礼します。私の業務をすっ飛ばして案内してるもんで、怒られたらまずいので。」
「はい。ありがとうございました。」
そういって係員は足早に来た道を戻っていった。