第16話 しゃがみ
卒倒騒ぎからもうすでに二週間が経過し、引っ越しも一週間前に終わったところだ。あともう二週間後には学校の入学式が控えている。私は、一応勉強は得意だったため、一般試験で総合工学科に入った。この学部では、一般的な工学ではなく、芸術分野の工学的応用や、既存の工学や理学技術を用いて全く別のことをやってみたりするところである。アート系に振り切った進学もよかったのだが、なにせ特別にアート系を訓練していないせいもあり、一般的なところでより希望に近いところを選んだ結果ここになった。海外は金がないから行けない。
こんな現実的な話はさておき、あれから空間とは毎日会って話をしている。しかし、また卒倒騒ぎになるといけないので、夢の中で会っている。前の時よりずっと鮮明に話せるようになった。それに、起床直後に毎日会話記録を付けることによって、かろうじて空間との会話だけは思い出すことに成功した。しかしその時見ていた風景や景色は全く思い出せないので、本当に一部分的な思い出しだが、それだけでも目に見える世界にいるときの自分の精神面の安心が随分と強くなった。
しかし最近は、会うだけで話さないことも多い。夢の中ではすべてのことが対称性を帯びており、片一方に寄ると、空間との適合率が下がってしまう。だから、最近は話さない。それに、話さないことは、夢の中ではすごい勢いで話すことと同義であるため、それもまた話さない理由になっている。夢の中では、景色こそ思い出せないものの、多分景色というものは無くて、すべての概念が対になっていて、それらが振れ幅の中で常に揺らめいている状態をただ「感じている」だけなのだろう。そういうふうに、私は何となくそういった感覚を覚えた気がしたので、邪推してみた。
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