第11話 再会②
妙に体が軽い。朝起きてからずっと清々しい気分でいる。何故だろうか。夢を思い出すことは出来ない。今までは、そういうもんだと思っていたが、今になっては思い出せないことが辛い。
「そうだ、もうすぐ引越しが本格的に始まるから、部屋の片付けをしておこう。」
そう、あと数日で、近郊へ一人暮らしのために引越しするのだ。ずっと溜まっていた片付けも、流石にやらねば時間が無い。そう思い立つと、昼ごはんも早々に済ませ、部屋に戻った。
部屋にゆくと、散らかっている勉強道具らがとても痛く見えた。これからこれを片付けなければならないのか、という重い気持ちに頭を支配されながら、まずは棚の整理を始めた。
棚を整理すると、いくつか幼少期のものがでてきた。自分の記憶を掘り返されるのは少し恥ずかしいが、この間の幼稚園への訪問で、その気持ちには随分慣れたので、そこまで抵抗なく見ることが出来た。
出てきたものは、いくつかの写真と、未来の自分に向けた手紙だった。多分先生達の勧めか何かで、そういう類の手紙を書いたのだろう。
写真には、家族写真や赤ちゃんの時の写真、はたまた小学校入学の写真など、とても幼い頃の主要な出来事の写真があった。
別にこれは不思議でも何でもなかっのだが、気にかかるのは手紙の方だ。
手紙は、少し折れ曲がった便箋に入っており、以外にもシーリングスタンプで止めてあった。推測するに、シーリングスタンプ体験、のようなもので作った手紙なのだろう。ずっと忘れて開けていなかったから、余計に驚いた。
丁寧に剥がして中を見てみると、ペラ1枚の手紙が入っていた。拙い文字で、こう書いていてた。
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しょう来の僕へ
今、ぼくはたからさがしをしていますか?
ぼくは、かいぞく船にのって、どうくつをさがしているとおもいます。
その時は、おへやにいるあの子もつれて行ってあげてね。
今の僕より。
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ああ、そうだった。私はずっとピーターパンに出てくる黒ひげに憧れてたんだ。それにしても宝探しか。私は一攫千金を狙うような人間だったのか?まあそれはいいだろう。
私が気になったのは、「お部屋にいるあのこ」である。私の家は、基本的に友達を家に連れ込むのは禁じていたから、私の部屋はいつも私しか入らない。
そこで私は合点がいった。ずっと私が違和感を感じて、何か忘れていたものは、部屋そのものなのだ。部屋を構成する空間そのものが、ずっと前に私の友人だったのだ。友人よりもずっと深い概念での付き合い。極めて自分と同化している友人がいたのだ。そして今、この場にその友人が居る。