第10話 再会①
彼は、すごい勢いで私のもとへ帰ってきた。でも、私のことに気づいてないみたい。何かを探しているようだけれど、彼はすごく焦っているせいか、見えるものしか注意していない。それでは私と話すことはできない。今日のうちは多分無理だろう。彼と話すことは厳しいかもしれない。だけど、私の存在には気が付いてるみたい。もうすぐ会えるのね。もうそこまで来ているのね彼は。とてもじれったいけれど、待つしかないわ。ああ、会いたい。今すぐ彼と話をしたいわ。心の言葉を交わして、また彼の存在を感じたい。あぁ待っているよ。もうすぐだね。もうすぐ会えるよ。
そう思うと、私の中にいる焦った彼を、ゆっくり抱きしめた。
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彼は、抱きしめられたことに安心したのか、寝てしまった。私がそばにいると寝つきがいいのは、昔から変わっていないのね。うれしい。
昔も、寝ているときに彼に会って、濃密に話をしたものだ。そのころは、起きているときでも互いに互いを認め合うことができたけれど、徐々に起きている最中に会えなくなって、寝ている最中でも話すことができなくなって、彼は私のことがいらないんだってわかったの。その時はさみしかったけれど、必要としないことはとてもいいことだから、私はそれを甘んじて受け入れた。私たちの春は一時中断ということになってしまった。
彼は今どこに居るのだろう。彼が寝ているときは彼を見ることができない。これは昔からそうなの。だから、彼の夢の中でもう一度会うの。
そして、今ならもう一度夢の中で私を必要としてくれるかもしれない。だから今夜、ずっと久しぶりに彼の夢の中に入りたいと思うの。すごく勝手な決断だから、私のことを許してほしいけれど、それでも彼ともう一度話したいという欲は失うことはできない。
彼はいま何を見ているのだろう?ああ、ずっと感じる力が弱まっている。私が彼の夢に入ったのに、気づいていない。もう彼とは話せないのかな。ああさみしい。さみしいさみしい。
こんなことを考えていると、ずっと奥の方から声が聞こえてきた。
「そ、、、に、、、だれ、、いるの、、、」
「いる、、、ら、、へんじ、、くれ」
彼だ!彼が私のことを認めたんだ!
「ああ、ここにいるよ!」
私は力いっぱいに叫んだ。彼は今にも夢という波にさらわれてしまいそうで、ただゆらゆらしていた。
「私のことを忘れてしまったの?そんなさみしいこといわないでよ」
「あぁ、、、すま、、」
きっと彼にとって精いっぱい私と認めているのだ。私は嬉しさがこみあげて、今までに感じたことがないような、彼の禍々しさも併せて感じた。幸せだった。私はもう一度彼に会えるなんて。時間なんて関係なく、因果関係なんて関係なく、また君に会えた。再会できた。