第33話 ハイライトオフ
学校では音楽祭に向けて放課後にクラスごとに合唱練習がある。
「帰っちゃだめ?」
「あきくん。どうしようもない理由がないとダメだよ?バイトとか塾とか」
あいにくバイトはないし塾にも行ってはいない。そして、二宮さんの顔が怖かった。
最近の僕の放課後は、バイトで貯めたお金はほとんど食費で消えている。早乙女先輩とご飯を食べたり、彼女ってことで奢りなどせがまれたり……。
そんな飯の時に図書館委員会の今後の話などをしたりする。
結局は「全てあきに任せた!」と言って他人任せで話が終わる。そんな放課後の日々が習慣化している。
合唱練習をサボったであろう先輩は僕のところに来た。
「お〜い、彼氏〜。飯いくぞー」
僕はそれに反応する。
「彼氏?ああん?早乙女先輩はあきくんの彼女さんなんですか?」
早乙女先輩はいつかやらかすと思ってたけど二宮にのみやさんにバレてしまった。
焦った早乙女先輩は、ある提案をした。
「二宮もくるか?」
クラスメイトがざわつく。
「二宮さん?」
「歌の練習始める?さくらちゃん?」
「歌詞配布しよっか」
二宮さんは答える。
「ごめんね、クラスのみんな!用事できた!」
二宮さんの顔は異様に明るかった。それが、逆に怖くてクラスメイトは僕たちの男女のいざこざに関わりたくなかったらしい。
誰も反対せず僕たちはクラスを出る。
行きつけのサイゼリアで僕たちは話す。
「どういうことか説明してください!」
「あー話すとめんどくさいんだが……」
「また、今回も嘘なんでしょ?」
二宮さんの剣幕が凄い。僕は嘘を付いてないが……周りが付いているだけだ。
「今回は本当に早乙女先輩が彼女なんだ。さくらさん」
僕は経緯を話した。ふゆ姉にゲームに負けて彼女を作れと命令されてこと。その相手が打算的に打ち明けた早乙女先輩となったことを。
「そんなの横暴よ!なんで私と付き合わなかったの?」
「あきは巻き込みたくなかったって言ってたよ」
彼女反面教師がフォローするおかしな構図になる。
少し前の理由なら二宮さんを巻き込みたくないということだった。しかし、僕に対する変態行動をカミングアウトした二宮さんは単純に怖い。
「さくらさんの行動が少し怖い」
「好きな人の髪の毛くらい嗅ぐでしょ?」
「お、おう……あきも大変だな。あとは若いお二人で……」
現在彼女は逃げようとしている……。
「先輩?私とあきくんの仲をとりもちしましたよね?関係譲ってくれますよね?」
「そ、それはあきによるだろ!な!あき!」
少し沈黙が続く。
「ごめん、さくらさんとは付き合えない」
パチンッ。僕の頬が叩かれる。
その瞬間、ある女の人の面影と二宮さんを照らし合わせてしまう。
嫌な記憶が思い出す。
「ご……」
ご……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。僕は口には出さず頭の中で復唱する。身体は震えていた。
そこにウェイトレス姿の女性が、店内をコツコツと歩いてきた。
肉を切断するための小さいナイフを持ち、そのナイフを二宮さんに向ける。
「私のあーくんになにしてるの?」
そこにはる姉がいた。口元から荒い息を立てて、殺す勢いすらあった。
はる姉の目にはハイライトがなかった。