ただの無双
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ダンジョン内をズンズン進んでいく。
1Fは草原が広がっている。ここを探索し、小屋を見つけ出して、中にある階段を降りる事で次のフロアに行ける。
だがこのダンジョンには特徴があり、索敵範囲が広く、どこまでも追いかけて来る素早いタイプのモンスターが多い。
逃走し続ける事はほぼ不可能とされており、戦闘に依る消耗は浅い層の時点で激しく、魔導師タイプの冒険者にはかなり難易度が高い。
なのだが。
「喰らえッ!」
炎の槍が敵を貫き
『カァッ!』
目にも止まらぬ弾丸が飛び交う。
『一方的過ぎない?』
『マスク出番なし』
『カラスつえぇな、というか見えねぇんだけど』
というような状況。彼女が大物配信者である事はわかっていたが、実力もここまで高いとは思わなかった。
草原フィールドということもあり、モンスターは獣系や虫系が多い。そして獣や虫は炎に非常に弱いのだ。また、炎に依る範囲攻撃と、彼女の鋭い突きや薙ぎ払いは、モンスターのステップを狩る程。
コクウはコクウでここいら程度のモンスターに負けるわけもなく。モンスターが視認・反応するまでもなく貫いて倒してしまう。
だが視聴者が視認出来てないのが難点か。
『やべぇファン◯ルだな』
『どちらかというとファ◯グじゃね』
『狼型が反応出来てないの初めてみた』
『おいマスク活躍しろよ』
『ホントはマスクは弱かったりして』
『コクウが強いだけかな?』
そう、余りにも出番がないので暇なのである。言うなれば、敵が弱過ぎるせいで、素早さの高いメンバーだけで戦闘が終了してしまう。そんな状況なのだ。
とはいえ、活躍しないのは問題だ。見せ場なく終了してしまっては、寄生プレイにしかならないし、俺の動画ばえもなくなる。そうなれば、登録者が減るのは必然。
「うわ、虫いっぱい!」
すると空から虫型のモンスターが複数出てきたら。数は五。おあつらえ向きか。
「では、お見せしよう」
飛んで来る虫に向けて、右手の指五本を向ける。
すると虫達の頭部が黒い球体に包まれ、頭部が消滅。頭部のなくなった虫の胴体は活動を停止し、地面に堕ちた。
『は……?』
『何が起きたの!?』
「なに、重力で圧壊させたまでだ」
グラビティプレス——俺が得意とする魔法で、空間を対象として重力を強め、歪ませて捩じ切ったり消滅させる事が出来る。
対象の魔法抵抗力や対象とする空間の広さなどにも依存するので、効かない奴には効かないが、獣や虫程度、ましてはこの程度のダンジョンであれば効かない敵はいない。
「対象にも依るが、指の本数分だけ指定出来る」
『あっかい……?』
『超重力で潰したのか?』
『ブラックホールかよ……』
『ナマ言ってすいませんでした』
「気にするな。ただ……指は五本、人体から繋がる部位も五本。後は……賢い諸兄らなら分かるだろう?」
『ひぇっ……』
『男は六本あるので一本無事かな?』
『馬鹿野郎下ネタすんな。大事な一本だけ狙われたらどうすんだよ』
『怖……』
「怖……」
コメント欄が大分俺に怯えているな。一部下ネタ野郎もいるが……ん?あれ?
視線を紅咲さんに向けると、俺を見ながら何故かドン引きしていた。
『アカちゃんまでドン引きわろた』
『知らなかったのかよww』
「……ご、ゴホン!ささっ、気を取り直して、いざダンジョン攻略!」
ズンズンと進んでいく紅咲さん。マスク内部で小さく溜め息を吐きつつ、俺とコクウは彼女の後を追った。
…………
圧倒的な力で敵を蹂躙し続け、漸く中ボスエリアがある階層に着いた。
『なにこのひとたちこわい』
『体力的にもすげぇ余裕そう』
『なんかマスクが頼れるやつに見えてきた』
『コクウちゃん強可愛い』
コメント欄も炎上は殆どなりを顰め、様々なリアクションが飛び交っているので見ていて楽しい。
そりゃそうだ。
一応高難易度ダンジョンであり、推奨メンバーは四人。それでも消耗は避けられない場合が多いというのに。
一人は炎属性付きの武器で敵を薙ぎ払い、
一羽は回避不能な程の速度で敵を貫き、
一人は飛んでいる虫を捻り潰す。
話題にならない訳がない。
紅咲さんも先程のコメントの荒れ具合が嘘のような状態を見て嬉しそうだ。
で、いよいよボスエリア……と思った所で、ふと誰かがいるのが目に入った。
男性が複数名、女性が一人。
「コクウ」
『カァ』
コクウが飛び立ち、連中に見つからないように上空を旋回する。
「『一隻眼』」
俺がそれを発動すると、右目の視界がグルンと変化し、上空からの視界に変わる。
「な、何をしたの?」
連中の様子を伺いつつ、紅咲さんが恐る恐る聞いて来る。
「コクウの目と私の目をリンクさせた。今、私の右目にはコクウが見ている世界が見える」
「そ、そんな力もあるんだ……」
連中の姿はどうやらまともではなさそうだ。装備や服装はマチマチだが、真っ当な人間ではない厳つさがある。その上、女性は酷く怯えていた。
そこで、チラリと見えたのは、連中が付けている指輪。金色の装飾がされている。
(アレは……成る程。ぶっ飛ばして良さそうな連中だな)
偵察を終了させ、コクウを戻す。助けようとは思うが、そこで一つ少し気掛かりがあった。
「紅咲。貴女は、対人の経験は?」
「えっ、と……訓練だけ、かな」
だろうなと思う。そもそも戦い方は対モンスター用だし、武器自体も、それに炎という属性も、不殺・無力化には向いていない。
コクウも対モンスター戦闘に特化しているため、人を相手にしたら殺してしまう。
「了解した。戦闘は私が行う。君はここに居たまえ。コクウは上空で撹乱しつつ、状況を見て女性を救出」
「う、うん、わかった」
『カァ!』
俺は意を決すると、態と奴らに見つかるように姿を現し、ゆっくりと奴らに向かって歩き始めた。
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