屋上へ
大変お待たせいたしました。
ずっと体調不良で思うように書けずに放置していました、申し訳ない。
「あ?なんだここ……」
弦山に言われて到着したビル。
そこの入り口から入ってみたのだが。
受付には誰も居らず、社員と思われる人も居ない。音は無く、まるで誰もいないような不気味な場所だった。
そもそも、ビルに入った時から違和感はあった。
外を見ても普通に車は通っているし人も歩いている。確かに夜っちゃ夜なので殆ど居ない事は頷けるが……警備員すらいないのなら入り放題になってしまう。
警備員がいるのなら、入った時点で誰か居た筈だし、警備室には俺が受付にいることが見えている筈。
なのに誰一人来ない。
人払いの結界……いや、そんな物殆どない筈。アメリカのダンジョンでドロップしたとか何とかは聞いた事あるが……貴重過ぎるしそんな物厳重に保管されているだろう。
「……っておい!マジかよ……」
辺りを見回しながら進んでいるとエレベーターの場所に着いたのだが……扉が凍り付いてしまっている。
複数機あるのだがどれも凍結させられていた。
試しに炎の魔法を翳して見るが……火力が低いのかはたまた炎の魔法では解けないのか、解ける様子が見えない。
「階段か?……行けなくはないが……」
「──そんな時は私の出番だね!」
「ん?」
聞き慣れた声に振り返ると、赤﨑さんが走って来ていた。既に手には槍を携えている。
「良く入れたね」
「最初はなんか『入りたくない』感じだったんだけど、篠枝さんを見つけたら違和感がなくなったんだ」
「成る程ね……で、出番というと?」
「燃す」
有無を言わさず赤﨑さんが槍を構えると凄まじい炎を纏わせた。その槍を凍結部分に突き刺すと、氷は急激に解け出しで水溜りとなる……と思いきや、水になる事なく消滅していくではないか。
「oh……GoodJob」
「でしょ!さ、上に行こう!」
しかし凍っていたのにエレベーターは動くのか……?と思ったのだが、ボタンを押すとエレベーターは特に問題なく動いた。
「……乗るしかないか」
俺と赤﨑さんはエレベーターに乗り、最上階へのボタンを押す。特に問題なくエレベーターは上がっていくため、俺は一息吐くのだった。
「……相手は聖ノ宮家を相手に圧倒していた。それも、かなりの手加減をしていた筈。赤﨑さんは……」
「……うん、分かってる。もし氷室さんが居て、傷付いてるなら、私は氷室さんの一応の護衛として側に居ておく」
赤﨑さんが目を伏せる。強く拳を握っている様子は、自分の無力さを痛感しているようで痛々しい。
「……憐れむつもりで言うわけじゃないんだけどさ」
「……?」
俺が腕を組んで壁に寄りかかる。
「俺だって最初から強かった訳じゃないんだ」
「……そう、だよね」
「人から見ればどうかは分からないけど、自分なりに血の滲むような鍛錬はしてきたつもりだよ。ま、師が良かったっていうのが一番だけどね」
「師匠?」
首を傾げる赤﨑さんに俺は頷いて返す。
「連絡先の一切が分からない師匠が何人かいるんだよ。だから釵なんて特殊な武器も使えるんだ」
「ほほー」
「一応、槍の使い手もいる、かなり気難しい人だけどね。タイミングが合えば紹介するよ。あの人が認めるか認めないか次第だけどね」
「……うん、ありがと」
同情、というつもりはないのだが、彼女の姿に少し自分を重ねてしまった。幼い頃から自分の無力さを痛感させられた自分に。
そうしている間に、エレベーターは最上階へと着いた。
扉が開く。
そこはヘリポートになっていた。
「──あら、サプライズゲストの登場かしら」
中央には二人の人物がいる。
「声的に、先日の犯人さんみたいだな」
俺は少しずつ近づいていく。
跪く女性と、その女性を見下す女性。
跪く女性と同じく銀色の髪なのだが、髪は肩で切られている。孤月と花を模したイヤリングを身につけ、服も白いワンピースのようなシンプルな服装なのだが。
その手に携える、血を纏った刀と、彼女が浮かべる妖艶な笑みが、人間というよりも妖魔の類に見えてならない。
「成る程、それがあんたの本当の獲物か」
「スノードロップ……良い刀でしょう?とても美しくて、血が映えるの」
愛おしそうに刀身を撫でる。付いていた血が手に付着すると、彼女はそれを舐めた。
「この子の相手はつまらなくて。先日戦った貴方なら、もう少し楽しいのかしら」
「美女のエスコートは緊張するけど、上手く出来るよう努力はさせて貰うさ」
「そう、嬉しいわ。……私はシレーネ、シレーネ・ユニフローラ。気軽にシレーネと呼んでくれて良いわ」
「そうかい。俺は篠枝鵠。是非名前を覚えておいて欲しいね」
──互いに地を蹴り、杖と刀が交差した。




