モノクロの夜景
「…………」
そこはとあるビルの屋上。
黒いローブを見に纏った人物が、地上を眺めていた。
彼女はずっと待っていた。
この時を。
この瞬間を。
ただ、どうなるかは流れ次第。
どう転んだとしても、良い結果になる。
約束の時を今か今かと、まるで恋人を待ち侘びるかのように焦がれていた。
時間は既に夜を迎え、地上の煌めきは星々のように瞬いている。
そんな新鮮で美しい景色でも、彼女に取ってはモノクロに等しい。
鮮やかに見える色は赤と銀。
それだけが自分を彩ってくれる色だった。
「……漸く、見つけた」
凛とした声が耳から入って来る。
自然と、口元が弧を描いた。
振り向くと、そこには美しい銀髪を持つ美女が立っていた。
「久しぶりね、元気にしていた?私の愛しい六花」
銀髪の美女──氷室六花は、氷の双剣を抜き放った。
…………
それなりの時間を探していたのだが、一向に見つからない所かその気配すらない。
街はすっかり夜になっていて、仕事帰りの人も多い。人通りが多い所でやるはずがないが……そうでない所はカラス達に見てもらっているのだが、報告はまだ来ない。
カラスですら見つけられない……屋内に居るのか?
そう考えていると、弦山から通信が入った。
「見つかったか!?」
『いや、見つからぬ。コクウ殿が欠片すら見つからぬと嘆いている程だ』
「そうか……いや、コクウ達ですら見つからないんだ……屋内か、カラスが見つけられないような場所に居るのか……」
『コクウ殿ですら見つけられない場所か……む。暫し待て』
弦山が何やら思いついたようだ。
すると耳元に、小さく金属を擦るような音が聞こえた。
『風が嫌に冷たい……これは、自然な物ではない……邪な何かを孕んだ風が……そうか!』
「分かったのか!?」
『まだ分からぬ、が、可能性は出て来た。コクウ殿、地上ではない!屋上を探して欲しい!』
『カァッ!』
成る程、弦山の思い付いた事を理解出来た。
弦山はどうやら妖刀を使ったらしい。そういえば、風を読むとか言ってたな。
ミヤプロでのカラス部屋は高い所にある。それこそ高層マンションのような所だ。それ故に、何処の屋上から流れているのかは限られて来る。
『……見つかった!地点を送る故、お主は疾く向かうが良い』
「了解!でかした!」
俺は弦山から教えて貰った場所に全力で向かう。
人の横を擦り抜け、ただ走り続ける。
人が振り返る頃にはもう、俺は彼らの視界から居なくなっていた。
…………
勝敗は既に決していたと言って良い。
「はぁっ……!はぁっ……!」
肩で息をする六花。
幾つもの切り傷が出来、傷は凍結している。天と同じような状態だ。
だが、ローブの女が持つ獲物が違った。
氷の双剣ではなく、一振りの刀を携えていた。
花を遇らった純白の柄に、白銀の刀身。美しい波紋は、月を白く映し出している。
双剣を持っているのは六花の方だった。
「それで終わり?北欧で培った力も大した事なかったのかしら?」
女は切先を六花へと向けて言い放った。
女は一切の傷を負っていない。
力の差は歴然であった。
「どう、して……」
「どうかしたの?言ってみなさいな、答えてあげられるかもしれないわ?」
女はクスクスと笑う。対して六花は歯軋りをする。
「……」
「あら、言わないの?……じゃあ、代わりに言ってあげる。『どうして生きているの?』でしょう?」
「っ……」
「フフフ……何故分かったのかって顔しているわね。貴女と私の仲じゃない。分からない事なんてないわ」
「私は……!」
六花は双剣を支えに立ち上がり、女を睨み付けた。
「お前の心なんて、理解出来ない……!」
片方の剣の切先を女に向けた。だと言うのに女は肩を竦めるだけだった。
「そう?悲しいわ……貴女なら分かってくれると思ったのに。だって私達──」
女が六花の耳元に顔を近づける。
「──双子の姉妹じゃない」
女は妖艶に微笑んだ。




