VS犯人?
遅れてすみません
戦闘は非常に劣勢であった。
敵は未だ殺すつもりはなく、天を傷付けるために攻撃をしている。
天も敵の攻撃に徐々に目が慣れてきたものの、幾つか掠ってしまい切り傷が出来ている。それだけならまだ良いのだが、傷口が忽ち凍結し、その部位の動作を鈍くしていた。
「もう少し、楽にヤってくれると、嬉しいんだけど?」
「それじゃあ詰まらないもの」
「高尚な趣味をお持ちなようで」
軽口を叩いてはいるものの、天に余裕は無かった。
部位の凍結自体は侵食せずに止まっているものの、箇所が多く動作に支障が出る。その上、予定にない戦闘だ。体の調子を整えている時間もなく、場所も見知らぬ廃工場。更に、体力の面でも差は歴然だった。
敵は剣を構えながら悠然と歩んでくる。
今の天に、次の攻撃を避ける術はない。
もし斬撃を防御出来たとしても、その次は防御すら出来ないだろう。
「余り面白くないわね」
「ご期待に添えなくて、申し訳ないね……」
「今後を期待は出来るのだけれど、先を考えると、貴方は餌にした方が良いのよね」
「……そうか、俺の死体を使うのか」
敵は頷いた。
「死体にはハエが寄って来るものだから」
敵は天の前で歩みを止めると、剣を振り上げた。
「さようなら。次回は、呪われてると良いわね」
「……あぁ、本当に、そう思う」
天の脳裏に様々な思い出が蘇る。これが走馬灯だろうかと、自然と笑みが浮かぶ。
そんな覚悟を決めた天の脳天に、剣が振り下ろされた。
「待てぇい!」
だが、剣は天に届かなかった。
目を開ける。
「どうも、お邪魔しますよ、お二方」
そこには特に特徴のない地味そうな人間が、氷剣を素手で掴んでいた。
…………
「……何者、あなたは」
「お、良い声だねアンタ。こんな剣振り回すより、声優でもやった方が良いんじゃない?」
拳に力を込めると、氷の剣は砕け散った。
多分女性である黒いローブ姿の犯人は俺から距離を取った。
「貴方は、一体……!?」
後ろにいる傷付いた男性、及び金髪碧眼のイケメンが俺を驚いた表情で見て来る。……おい、なんだこのイケメンは。ハリウッドスターか?ディカなプリオの再来か?
「今俺はイケメン死すべしか助けるべしかで迷ってる」
「は……?」
「あーいやいや何でもないこっちの話。俺はねぇ……まぁ、アレだよ、通りすがりの一般ピープルだよ」
「いや……あの剣を、掴んで破壊出来るような一般人は、いませんよ」
「え?……あー……いや今時はいるよ?うん、居る居る。氷剣掴んで破壊しちゃう系男子。近所のサトシ君がそうだったなぁ」
「……」
イケメンが凄いよく分からない表情で俺を見る。それでも絵になるのな、イケメンってのは。
ムカつくわぁ。
「とまぁそんな一般ピープルなんですがね……美女センサーがビンビンに働いた訳ですよ。てな訳で、お顔を拝見しても?」
俺は犯人に顔を向ける。
「とんだイレギュラーね、貴方」
「イレハンの方が好きなんだけどね俺は」
縮地を行う。
瞬時に犯人の目の前まで距離を詰め、拳を突き出す。その先は氷の剣だ。
拳は氷剣に当たり、粉々に砕け散る。犯人はというと、予想だにしない一撃に対しすぐさま反応して飛び退いた。
「まだ氷剣作れる?だったらブルーハワイでも買って来るけど?」
「……調子まで狂わせられるわね。もういいわ。目的は完了したし、このまま相手をするのは分が悪い。それに、貴方というイレギュラーが居る事が分かったから」
「女性に顔を覚えられるのは嬉しいね」
俺が肩を竦めながら言うと、犯人は、廃工場の屋根まで飛び上がった。追い掛ける事も出来るが、今はこのイケメン君だ。
「何とかギリギリ、撃退出来たな!」
「ギリギリ……」
イケメン君がゆっくりと立ち上がる。体の部位が幾つか凍っているようだが、部位自体が氷になっている訳ではなさそうだ。だがこのままだと部位が壊死してしまうかもしれない。
「もう直ぐ救急車が来る筈だ。それまで我慢してくれよ?あーそれと、俺の事と、これからやる事は内緒な?痛いだろうけど、壊死するよりはマシだ」
「え?」
俺は凍った部位に手を近づけ、炎を出した。
「炎、属性……?貴方は」
「質問は無しで。社外秘のため、お伝えは出来かねますぅ」
そんな茶化し方をしながら氷を溶かす。傷の痛みに彼は顔を少し歪めるが、耐えられるようだ。
そこで、救急車のサイレンが聞こえ始めた。
「良し、後は大丈夫だな。見つかると面倒だから、言い訳何とかしといてくれ。じゃ!」
「あ、ちょっと──」
イケメンの静止を振り切り、俺はその場から逃げ出したのだった。
…………
「嵐のような人だった……」
天は少しポカンとしながら呟いた。
マジンガンのようなトークを軽快にかましながら天の苦戦が嘘のように圧倒して見せた。かと思えば炎属性を持っている。
あんな人物、天は知らなかった。
(まぁ、また生きてしまったか)
自重気味に笑う。そして、敵と交わした言葉を脳に刻むように反芻した。
その目にはほんの少しだけ、光の灯らぬ部分が見え隠れしていた。




