過去
まず、俺の家族構成だな。
俺には祖父母がいる、まだ存命だ。
何処に居るかって?
いや、所在は分からない。海外のどっかに居ると思うよ。
両親は、幼い頃に死んだ。
二人とも警官でね。母もずっと前線に居たらしい。
で、ある時近隣の銀行で強盗立て籠りがあったらしくて。その現場に急行したんだ。
で、色々あって事件は無事解決──になりそうだった。
でもその銀行強盗の中に運悪くスキル持ちが居たのさ。
スキルの詳細は分からないと言われたが、警官達が乗って来たパトカーが次々に爆発。
警官は全滅。逮捕されようとしていた犯人達は車の中にいて、当然死亡。
帰ってきたのは、焼け焦げた帽子だけだったんだってさ。
だけど俺は知らないし、親が帰って来ない、緊急ですぐに家を出たりしていたから、夜に居なくても別に気にならなかったんだ。
爺ちゃんも婆ちゃんも居たしね。
で、ま、色々あって俺は爺ちゃんと婆ちゃんに育てられて来たんだ。
それで俺が成人を迎え、コクウと一緒に冒険者として生活出来る程度の稼ぎが可能になった事で、爺ちゃんと婆ちゃんは旅に出たんだ。
元々、二人共海外とかは好きだったんだ。
でも、両親が共働きで、且つ仕事は緊急招集が掛かる事もあるせいで、俺の世話をするために海外は愚か遠出も出来なかった。
俺もずっと二人には迷惑掛けてきたし、育てられてきた恩があるから、心良く送り出した。
で、爺ちゃん婆ちゃんから偶に手紙が来るけどそれぐらい。二人共グノーシス使ってなかったのかアドレスすら知らないんだわ。
そんなこんなあって、家に帰ってきて誰かに「おかえり」って言われたのが凄い懐かしかったんだ。
で、ちょいノスタルジックになってたって訳さ。
……
「成る程……中々な荒波の人生だったのだな」
「ガキん時はね。反抗期なんてのも気づけば無かったかも。今となっちゃあ目立ちたくないから、生きる最低限の金だけ稼いで後は隠居したジジイみたいな生活をしてる……いや、してたんだがなぁ」
「ほほう。そんな人間がどうして陽の下に出たのだ?」
俺は赤﨑さんとの出会いを話した。いつの間にかコクウが煎餅を取り出してくれていたので、食べながらだ。
「ふむふむ。随分と颯爽な登場ではないか。赤﨑殿もさぞ、ベタ惚れなのではないか?」
「まさか。向こうは今を生きる絶賛ピチピチの美少女JKだぜ?そんな子が天日干しにした椎茸みたいなシナシナおじさんに惚れるかよ」
笑い飛ばすが、弦山は首を傾げた。
「じぇいけい、とは?」
「あー……女子高生ね」
そうだった、弦山は横文字に弱かったんだった。……でもJKは横文字というよりはスラングか。
「まぁ、世の中乾燥椎茸を好む女子も居よう」
「そうかねぇ……でもあの子ならよりどりみどりなんじゃねーの?」
「あれ程であれば選択肢は多いであろうな。だが、相手を選ぶのは本人故。奇特な人物に惚れる可能性もある」
「確かにねー」
俺は選択肢外だろうけどな。
そんな事を思いつつ、今度は昨日聞けなかった気になった事を質問してみる。
「そういやさ、ダンジョンで使ってたあの『四幻流』だっけ?あれはなんなんだ?」
「うむ」
弦山は咀嚼している煎餅をお茶で流し込む。
「四幻流──とある流派を源流とする流派らしい」
「らしい、とは?」
「拙僧も良くは知らぬ。ただ、四幻流は拙僧の飼い主──宮司が偶に一人で使っていた技なのだ」
俺は煎餅を咀嚼しながら頷いた。
「納めた技を忘れぬようにしていたのか、はたまた己が内に秘める幼き心がそうさせたのか」
「幼き心?」
「うむ。必ず気合いを入れて技の名を呼ぶのだ。仮想敵がいるのか分からぬが、決めの台詞まであった」
「あー……なるなる」
厨二病的な所があったのかな?
「拙僧は猫であるため、横に居てもお構い無しにやっていた。そして今の所、思い出せたのがあの二つの技、『春疾風』と『鎌鼬』なのだ」
しかし、と弦山は告げた。
「春疾風は未だ宮司の足元にも及ばぬ。鎌鼬は少し方向性が違うが……」
「え?あれでもまだ足元に及ばないのか?」
「うむ。宮司の春疾風は神速の如き速度、初動を見せぬ完璧な縮地、無駄のない剣線──全てが瞬きの間に完了してしまうのだ。拙僧の動き、お主は見えていたであろう?」
「一応ね。まだ目で追えるぐらいではあった」
弦山は頷いた。
「それではまだまだという事だ。無論、お主の強さが突出しているというのもあるのだが……いずれ、お主やコクウ殿の視線から逃れる程度には疾くなりたいものよ」
「残念、俺はまだまだ成長期の少年でね。追いつかれる前に視界の外側に行ってやるさ。な、コクウ」
『カァ』
コクウが煎餅を嘴で挟む。
「あ、ちょっとその醤油は俺が食べようとしてたのに!」
『カァカァ』
遅過ぎだな、と言わんばかりに首を横に振るコクウ。
「ではこれは拙僧が頂こう」
「え?……あ!第二候補のゴマが!」
「二兎追うもの一兎も得ず」
「二兎追って二兎共得る予定だったんだよ!」
「取らぬ狸のなんとやら。随分と、獣に好かれておるなぁお主は」
「ムキィィィィ!」
ゴマ煎餅を齧る弦山がニヤニヤと笑う。
俺は仕方なく残りの煎餅を食べるのだった。




