ミヤプロ
評価・ブクマなどをして頂きありがとうございます。小躍りしました。
つきましては皆様のMPを5程下げさせて頂きましたのでご了承ください。
「お迎えに上がりました」
特に持っていく物もないので、着替えてコクウ用の櫛をポケットに入れて準備完了。それから殆ど待たずにインターホンが鳴らされた。
出るとそこに居たのは先程電話口で最初に対応された制服姿の朝霧さんだった。
家の前には黒い車が停められており、窓が開いた。
「やぁ、篠枝君。実際に会うのは初めてだな」
そこには紛れもない、石動本部長の姿があった。
厳つい見た目。通話越しですら感じていた威圧感は更に増しており、今にも押し潰されそうな感覚だ。しかし石動本部長は柔和な笑みを浮かべていた。
笑みを浮かべていてもコレなのだから、本気で切れたら目力だけで砂と化すかもしれない。
俺は緊張したまま車に乗り込む。
四人乗りの車で、中の座席は凄くフワフワしていて座り心地は抜群だ。前にはモニターも付いている。
現在俺の太ももの上にはコクウが座っており、俺は櫛で毛並みを整えながら落ち着こうとしていた。
前の座席に座る朝霧さんがチラチラと後ろを振り返っているのは何故だろう。
「やはり特異なカラスだな、その子は」
「色々ありましたので……」
「報告書には目を通した。君にとってその子は、家族、という認識で間違いはないかな?」
「はい」
俺は即答した。コクウはペットではなく、兄弟のような物だ。両親よりも長い間一緒に居る。ペット扱いだったのは数年程度だ。
「では我々もコクウはペットではなく君の家族として扱おう。因みにコクウはオ……男性かな?女性かな?」
「わかりません。コクウに聞いても有耶無耶にするので……なぁ?」
『カァ?』
「か、かわ……」
鳴きながら首を傾げる。カラスの雌雄を判別するのは非常に難しいらしく、番がいるなら大きさで判断出来るらしいが、それ以外だと解剖して卵巣か精巣かを確認しなくてはいけないらしい。
なので本人……本鳥?に確認したかったのだが、当の本人はずっと有耶無耶にしてくる。まぁ、性別はどうでも良いか。
……ん?
「えっと……今?」
「あぁ、気にしないでくれたまえ。発作のような物だ」
「ゴホッゴホッ」
石動本部長が何故か苦笑いを浮かべて言うとほぼ同時に朝霧さんが咳き込む。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です、お気になさらず」
「え?えぇ、わかりました……」
少し違和感はあったが、朝霧さんは変わらずクールな様子だ。石動本部長がまた苦笑いしていたのも気になるが……一々気にしていたらキリがなさそうだ。
そうこうしている間に到着した高層ビルのような建物。都内一等地に建設されたそのビルは、多くの有名ストリーマーが所属する事務所『ホリミヤプロダクション』である。
多種多様なストリーマーが所属しているが、数自体は多くない。量より質を重視していて、リスクマネジメントが非常に上手く、炎上した場合所属しているストリーマーを即座に切る事もある。
そもそも所属ストリーマーが炎上する事はかなり少ないプロダクションで、視聴者からの評判も良い事で有名。他のプロダクションに比べて大分クリーンな印象を受ける。
そしてなにより……先日助けた女性も、ここのアドストリーマー部門に所属しているのだ。
本来であれば厳重であろう、警備をそのままスルーして、車はビルの地下へと進んでいく。地下駐車場もかなりの広さであり、良く名前を聞く高級車もそれなりに並んでいた。
(数千万はするスポーツカーに、あれは……確か世界に二十台しかないクラシックカーじゃなかったか?)
そんな並びに目を見開きながら、車はゆっくりと停止した。
「到着致しました」
朝霧さんに促されるように車から出る。そのまま警備員の案内に続いて進み、エレベーターに乗る。かなり広いエレベーターで、内部装飾もかなりの物。
「……ん?」
良くエレベーターのボタンを見て見ると、ビルの高さに比べて明らかにボタンが少ない。というよりも、ボタンに表示されている階層が上層の分しかないようだ。
「これは所謂専用エレベーターでな。社長室やトップストリーマーのいる階層にはこのエレベーター以外では行けんようになっている」
俺の疑問に気付いたらしい石動本部長がそう言った。
そんな物まであるのか……流石はトップの企業というべきなのか。どういう理由でこのような構造なのかはわからないが、それなりに理由はあるんだろうと納得する。
と、そこでエレベーターが停止。ゆっくりと扉が開く。
「お、おぉ……」
オフィスビルのような想像をしていた俺の予想は外れ、綺麗に磨き上げられた黒い床、豪奢な明かりに照らされた煌びやかなフロアが出てきた。
「俺、場違い……?」
『カァ』
コクウは頷いた。
「これからは場違いではなくなるから今のうちに慣れておきなさい」
石動本部長はそういうと、警備と代わった案内人のような女性に連れられるように奥へと進んでいく。
恐る恐るといったような感じで石動本部長と朝霧さんの後ろに着いていく。二人は堂々とした振る舞いなのに、自分は周り全てが怖い。
——コーヒー溢したら幾らになるのか、調度品落としたら替えは効くのか、俺の数千円の使い古したスニーカーでこの通路を歩いて良いのかなどなど。
考えたらキリがなかった。
「こちらでございます」
そんな事を考えている内に目的の場所に到着したようだ。
通路と同じくこれまた美しい黒い扉。取手や装飾は金色で造られている。案内人の女性が扉を開ける。
部屋の中でソファに座る人物が二人。一人はスーツ姿の怜悧な黒髪の女性。もう一人は——
「あ、貴方が……!」
コクウが助けた女性だった。




