VSウルクハイ2
「──ニノ型・鎌鼬」
風の刃が、飛来する矢を真っ二つにする。
弦山がまた、新たな技を使ってコクウを助けたのだ。
『スゲェ!斬撃飛ばしやがった!』
『飛ぶ矢を綺麗に斬ってるし』
『俺もやってみてー!』
今の展開にはコメントも盛り上がりを見せていた。それもそうだろう。何せ射られた矢を真横から真っ二つにしたのだから。タイミングが完璧だった。
『カァカァ』
コクウは弦山の横に滞空すると、弦山に向けて鳴いた。礼のつもりだろう。正解だったのか、弦山が首を縦に振った。
「うむ、持ちつ持たれつよ。ではコクウ殿、仕切り直しと参ろう」
『カァ!』
再び二人は距離を取る。その間に紅咲さんがウルクハイにターゲットにされており、ギリギリの所で棍棒を回避し続けていた。
「もう、大丈夫!?」
『カァカァ!』
「オッケ!」
紅咲さんはコクウに追い討ちが行かないようターゲットを取ってくれていたようだ。
もう大丈夫だ、とコクウが返すと紅咲さんが棍棒を回避しつつ距離を取った。追おうとするウルクハイだったが、その側頭部にコクウが突撃。軽い脳震盪のような物を起こしたウルクハイがよろめく。
その間に三人は距離を広げた。
(遠距離はボウガンに依る正確な射撃。かと言って近距離は凄まじい膂力から放たれる棍棒に依る一撃。出来れば近接攻撃を誘発出来る程度の近中距離が良いが、その部分は俺の担当だ。だとすれば……ん?)
俺は三人の様子に首を傾げた。纏って攻撃を受けないよう距離を離していた筈なのだが、いつの間にか三人が一列になっていた。しかも、ウルクハイと距離を取った上で。
しかも最前列が弦山、中央がコクウで後方が紅咲さんだ。俺は少し考え、だが直ぐに答えが分かった。
『マスクゥ、アイツら何やってんの?』
『ボウガン三枚抜きか?』
『しかも弦山が前なんだ』
疑問を浮かべる者達が多く、理解していそうなのはほんの一握りだ。ほんの一握りでも理解しているのなら大した物だろう。
「まぁ見ていろ。カウントダウンぐらいはしてやる」
俺はウルクハイのカウントダウンが残り三である事を視認した。
『カウントダウン?』
『カウントー』
『ダウン!』
音楽ランキング番組じゃねーから。
『ヤ゛ッダネ゛!』
ワイルドなダウンでもねーから!
内心ツッコミを入れながらも視線は動かさない。
距離が空いているからか、ウルクハイはボウガンを構えている。その射線はしっかり三人が貫かれるような位置に向けられている。勿論、ボウガンに本人の膂力は関係ないのだが、オークのような種族が使うような武器が普通の人間でも使える物であるはずがない。
その威力は相当な物だろう。コクウが見て回避出来ない程なのだから。
矢が射られる。殆ど反応など出来ない速度だが、弦山
違った。
「もう、視えておる」
抜刀一閃。
神速とも見紛う刀の閃きが、矢を正面から真っ二つに切り裂いた。
「二」
『ニ?』
『ニ?二?』
『ヤベェ、二がゲシュタルト崩壊してくる』
『ゲシュタルトおいしいよね』
誰が作るか。
そうこうしている間に二射目が放たれるが、弦山がこれを何なく弾き飛ばす。そしてその時、紅咲さんが槍を構えた。
「一」
『ほほう』
『はーなるほどねかんぜんにりかいしたわ』
絶対分かってないだろ!
『成る程、矢か』
そろそろ気付いた視聴者がチラホラ出始めていた。俺は頷いた。
「今気付いた者は上出来だ」
そして最後の矢が放たれた。
紅咲さんが槍に炎を纏わせ、コクウが弦山の頭上まで上昇する。
飛来した矢を何なく弾いた弦山。
「零」
俺がそう言うと同時に、コクウが飛び、紅咲さんが槍を振りかぶった。
「ぶっ飛べえぇぇぇ!」
炎を纏った槍が投擲される。炎は鳳凰を象り、ウルクハイへと猛進する。
当のウルクハイは、矢がゼロになった事で再装填を行っていた。そんなウルクハイに高速の弾丸と鳳凰が飛来する。
それを目視したウルクハイは再装填をやめ、棍棒を振り被ろうとした。そのままでは槍ははたき落とされてしまうだろう。
だが、まず着弾したのはコクウだった。
コクウは棍棒に向けて突進し、弾いたのだ。
そしてガラ空きになったウルクハイの胸部を鳳凰が貫いた。
そのままウルクハイは全身を炎に包まれながらボウガンと棍棒を落とし、膝を付いた後、地面へと倒れて消滅した。
そして仕事を終えた槍は、紅咲さんの手元へと帰還した。
「良しッ!」
グッとサムズアップと満面の笑みを浮かべる紅咲さん。コクウも翼を広げ、弦山も満足げに頷きながら納刀した。
『おぉー』
『良い連携だ』
『おめでとうございます!』(¥10000)
「皆ありがとー!」
紅咲さんがドローンに向けて手を振る。
「と言うわけで、私達はこうやって連携も出来るって事で、皆認識してもろて!……では、もうお時間ですので、配信は終了させて頂きます!ありがとうございました!またねぇ!」
紅咲さんが大きく手を振りながら配信を停止。配信を切った事を確認すると、紅咲さんは息を吐いた。
「皆お疲れ様でした」
「お疲れさん」
『カァ!』
「うむ、良さ連携であった」
ボスのドロップはコアのみだった。
「ねね」
「うん?」
マスクを取って一息つくと、紅咲さんが顔を覗いてきた。
「どーだった?」
「良い連携だったと思うよ。赤﨑さんの突破力を上手く利用してたと思う」
「えへへ」
紅咲さんは柔らかな笑みを浮かべた。太陽のような笑顔に俺も釣られて笑みを浮かべた。
「俺が参加せずとも余裕で何とかなるな」
「んー……ただ魔法があるかないかって結構デカいかなぁって思う」
「確かにそうだな」
俺には重力とエンチャント、そして四属性がある。四属性自体を配信で使うかどうかはまだ決めていないが、デッドアイの事もあるし、似たような連中が配信を情報に対策を積んで来る可能性がある。
基本的には使わない方が良いだろう。
そんな事を考えながら、俺たちはダンジョンから帰還するのだった。




