VSウルクハイ
度々投稿せずに申し訳ありません。師走という事もあり業務が忙しくて中々手がつけられませんでした。
出来れば週6ぐらいにはしたいと思います。
道中の敵も難なく倒し、エリアボスへと辿り着いた。あれ以来見せ場も無かったようで、弦山は他の技を使っていない。
本人に聞いてみたかったのだが、事情が事情でもあるし、弦山の過去というプライベートがネット上で晒されるのは良く無い。自宅に帰ってからでも遅くは無いだろう。
モンスターからのドロップは今の所オークの皮のみだ。それでも大収穫ではあるのだが。
『ボスがんばって!』(¥2000)
『まぁ勝てるだろ、と思ったけどマスクなしか』
『コクウがんばえー』
『ぬこの活躍が見たい』
弦山を名前で呼ぶ視聴者は少なく、『猫』や『ぬこ』とばかり呼ばれている。本人は凄い戸惑いがちだったが、直しようがなかったので諦める羽目に。
「では、ボスエリアに入っていきます!」
エリアへと足を踏み込む。平たい草原のようなエリアではあるが、所々岩などが生えている。そんな草原の中央には、一体のモンスターが立っている。
全身が真っ黒で筋骨隆々。身長も2メートル以上ある存在で、オークのような見た目なのだが、体は様々な武装を装着している。
肩や胸部などにはプレートが装着されているし、腰にはマチェット、背中にはボウガンなどの武器を幾つか装備していた。
ウルクハイ──そう呼ばれるボスだ。
ウルクハイは目を閉じ、少し細めの棍棒の先を地面に着けている。オーク種ではあるのだが、オーク種とは思えぬ立ち方であり、確かにボスの風格を持っている。
「では、参ろうか」
刀に手を添える弦山。紅咲さんも槍を構え、コクウも既に肩から飛び立っている。俺はウルクハイのターゲットにならないよう距離を取る。
コクウ達がウルクハイに近づいていくと、ウルクハイは
目を開け、棍棒をゆっくり構えた。メンバーにも緊張が走るのだが、彼女らを引っ張るようにコクウが真っ先に飛んでいった。
棍棒を振り上げたウルクハイがコクウにターゲットを移し、振り下ろした。だがコクウはその棍棒を紙一重で回避し、ウルクハイの背後へとすり抜けていく。
だがウルクハイは素早く転身し、腰に付けていたボウガンを手早く取り出して構え、コクウに向けて連射を行う。どの矢も正確にコクウを捉えるのだが、全てギリギリの所で回避していた。
『流石コクウ』
『スゲェな、ミサイルを避ける戦闘機みたいだ』
『がんばえー!』
そして遂にボウガンが弾切れとなり、腰に装着していた矢立てから装填を行う。攻撃するなら今だろう。
「四幻流一ノ型・春疾風」
当然だが弦山はその隙を見逃さない。
すり抜け様の高速の斬撃がウルクハイの肉体を襲う。
が、ウルクハイの肉体に幾つか切り傷を付けただけで、切断には至っていなかった。弦山はウルクハイへのダメージの通りが悪い事に少し表情を歪ませていた。
ウルクハイとは謂わばオークを変化させた異常個体のような物である。そもそもオークはエルフを堕とした存在である──というのが元々の説であり、神話や創作などに準拠したモンスターが多い。
で、強靭な肉体を持つオークを更に変化させたウルクハイなのであれば、斬撃への耐性があっても不思議では無い。のだが、弦山の攻撃がそこまで入っていない、というのは些か疑問が残る。
そもそも威力が低いのか、ウルクハイの肉体に依る物なのか──それはまだ分からない。
切り傷が出来たウルクハイだったが自身の傷などお構いなしに矢を装填し終え、再度ボウガンをコクウへと構えた。
コクウは空中を踊るように飛び回ったままだ。
ウルクハイは少し間を置き、矢を放った。
──黒い羽が一枚、地面へと落ちた。
「……!」
俺はマスクの中で目を見開いた。
何せ、今の今まで雑魚からの攻撃など掠りもしなかったのだ。だというのに、ウルクハイのボウガンはコクウの羽を、たった一枚ではあるが掠らせたのだ。驚きを禁じ得ない。
コクウ自身も掠るとは思っていなかったのか、旋回にブレが生じた。そこをウルクハイは見逃さない。再度ボウガンを構えた。
俺の場所からコクウとボウガンの鏃を見るに、ボウガンの射線はコクウがいる位置ではなく、コクウの頭が向いている先の位置に通しているように見える。
まさか、戦闘中にコクウの動きを学び、偏差射撃でもしようというのか?
「コクウッ!」
紅咲さんも危険性を察知したのか、ウルクハイ目掛けて槍を構え、突進する。だが、紅咲さんでは止める事が出来る距離ではなく。
──コクウを仕留めるための矢が、無慈悲にも射られたのだった。




