オークとオークの……
オークが振り向き弦山を見るが、コクウがオークの前に躍り出る。そして周りを飛んでオークの邪魔を行う。
それに気を取られたオークは、棍棒を振り回して当てようとするのだが、コクウには掠りもしない。
振り抜かれた棍棒を沿うように自在に飛行しながら回避。紙一重のような回避運動だと言うのに、棍棒が当たる気配を微塵も感じさせない。
「でやああぁっ!」
そして隙だらけのオークの背中に紅咲さんが槍を突き刺す。突然の痛みにオークは呻き声を上げ、棍棒を振ろうとするが。
「着火ッ!」
槍から炎が迸る。
炎はオークの全身を包み込み、更にオークを苦しませていく。だがそれでもオークは耐久力が高く、そう簡単には死なない。
槍を抜き放ち、退避しようとする紅咲さんだが、暴れるオークの棍棒が当たりかけてしまう。
だが、棍棒を持つ腕は突如としてオークの肉体から離れ、吹き飛んでしまう。オークはそれにすら気付かずに無い腕を振るうが、徐々に動きを鈍くし、最後にすは地面へと倒れ消滅した、
「流石にオークの筋肉と言えど、弦山の刀ならば容易く切り裂けるか」
「うむ」
いつの間にか紅咲さんの横に立ってる弦山。彼は再度縮地を行い、最小の動作でオークを擦り抜け、その擦り抜け様に腕を切り飛ばしたのだ。
「ドロップ……え?マジ?」
紅咲さんの驚く声が聞こえて来たため、俺たちの視線が紅咲さんに集まる。紅咲さんが指差したのは下であり、そこには皮が落ちていた。横には小型のコアが二つと中型のコアが一つ落ちている。
『オークの皮ktkr』
『ナイドロ』
『羨ましいぃぃ!』
などとコメント欄が沸いている。オークのドロップとして、どうやら皮をドロップしたようだ。
オークのドロップ自体はほぼほぼデータとして揃っており、腰布・棍棒の破片・皮切れ・皮の順番でレア度が高くなっている。その中でも最もレアなドロップを引いたのだ。
オークの皮は防刃性、耐久性が高く、その上でそこまで重くないので冒険者の防具としてかなりの価値がある。一般的な冒険者では手が出ない程に。
……近年では高級ブランドとしてデザイン性の高い防具がトレンドだったりするのだ。まさかフリルが付いたアイドルみたいな目立つ服の素材がオークだった──なんて事をも珍しく無い。
モンスターの皮を売却せずにメーカーに依頼して自分好みのデザインに加工して貰う事も出来る。最も、1ドロップだけでは基本的に足りないのだが。
そんな女性冒険者から人気な素材がドロップした筈なのだが、紅咲さんは一向にその皮を取ろうとはしない。
「……どうした、紅咲」
「え?あー……えっとぉ……私、要らない、かも。ほ、ほら!倒したの、弦山だし!」
「……」
俺は眉を顰めながら皮へと近付き、指を付けた。
ぶにゅっとした感触が指を伝う。俺はゆっくりとした動作で体勢を戻し、紅咲さんへと視線を向けた。
「これか」
「え……?……へ、へへっ」
へへっじゃないわ、可愛らしく笑うんじゃないの。まさかこの独特な感触が苦手なのか。……まぁ、言うなればマッチョの裸体から剥ぎ取った皮の感触がこれなら確かに、苦手意識はあるかもしれないな。
俺は皮をむんずと掴んで背負う。
──この世界に、多数入る魔法の収納袋などという概念は存在しない。そのため、基本的には自力で持ち帰らなければいけないのだが、中にはドロップが良過ぎて持ち帰れなくなり、泣く泣く捨てる場合も。また、一部のパーティには荷物持ちの役割を持つ冒険者が居たりする。
勿論人によって持てる量に限界はあるのだが、中には荷重軽減などのスキルを持っている人もいる。そういう人は荷物持ちとしての価値が高い。当然だ、持ち帰れる量が多ければ多いほど利益が出るのだから。
だがそういった価値の高い荷物持ちは巨大なクランなどどこかに所属しているため、個人でやっている人は見た事がない。そもそも、荷物持ちは事戦闘に関してはそれこそお荷物。
野良なんかでやったらピンチの時は囮にされる可能性が高いし、武力で脅して言う事を効かせる、なんて事も出来てしまう。そんなリスクを背負うなら巨大なクランに所属して身内のためだけに働いた方がローリスク、ハイリターンな訳だ。
『オークの皮苦手なのか』
『ぶにゅってするらしいね』
『(悲報)アカちゃん、オーク苦手』
『じゃあコメント兄貴達は苦手扱いか』
『コメントオークw』
『オデ ニガテ カナジイ』
コメント欄に徐々にオークが増えて来ている。
「大丈夫!視聴者オーク君達は苦手じゃないよ!」
フォローの仕方が違うよ。
『オークなのは決定なのね』
『オデ オーク チガウ』
『ニンゲン クウ』
『視聴者の知能が下がっていく……元々か』
紅咲さんの間違ったフォローによって視聴者達がまた騒ぎ始めた。ただ悪い騒ぎ方ではないので特に何かするつもりはない。
紅咲さんが残ったドロップ品のコアを回収していると、俺の肩にコクウが留まった。勿論、俺の肩にはオークの皮があるため、足で掴んだのはオークの皮だった。
『……』
コクウはじぃっとオークの皮を睨み付けている。
「突っ突くなよ?価値が下がる」
『カァ……』
感触が不満げなコクウに内心謝罪しつつ、俺たちは次の場所へと足を進める。
……道中弦山がぶにぶにとオークの皮を触っては首を傾げたり頷いたりしていたのだが、気に入ったのだろうか。……オークの皮と弦山の肉球、どっちが良いかな。そんな事を俺は考えながら移動したのだった。




