謎の流派
戦闘そのものに苦戦はしなかった。
それは当然だ。コクウという最高の回避タンクがタゲを取り、赤﨑さんの突破力が敵を薙ぎ倒す。それだけではなく、弦山の鮮やかなまでのスピードが敵を翻弄するのだ。
オーク、というモンスターがいる。ゲームでも割とポピュラーで有名な部類に入る怪物なのだが、現実でダンジョンに出て来るオークは割と違っていた。
ゲームで良く見るオークは巨人が多い。2メートルなどゆうに越す体躯と強靭な筋肉が、太い棍棒などを携えている、というのがありがちなオークだが。
ここに出現するオークは、身長も高くて2メートルを越えるぐらいで、殆どは我々人間と似たような身長だった。オークと呼ばれるのはその中でも2メートルを越える奴の事を言い、人間と同程度のモンスターはスナガと呼ばれる別個体である。
スナガも棍棒を所持しているのだが、オークに比べて体はそこまで太くない。大人が棍棒を振るう程度と同じだ。まぁ、大人が棍棒を振るう時点で普通なら脅威なのだが。我々は冒険者だ、その程度で悲鳴は挙げない。
オーク一体に対しスナガは二体引き連れられて来る。数は丁度三対三。一対一を行うのか、三対三を行うのか。俺は口出しするのを禁じられているため、彼女らがどうするのかが見ものだ。
ただ、解説はしないと行けないので、油断は出来ない。
「GO!コクウ!」
『カァ!』
スーパーなロボット物っぽい掛け声だな──というのが率直な感想だが勿論口には出さない。
コクウがまず前に出て、三体のタゲを取るようだ。オークが怒号を挙げると、スナガもコクウを視線で追い始めた。
「隙有りィ!」
これを好機と紅咲さんがスナガに向けて肉薄し、槍を振るう。
「……嘘ん」
しかし瞬時に振り返ったオークが、その棍棒で槍を受け止めたのだ。紅咲さんは素早く後退するが、オークの一歩は大きく、踏み込んだ一撃が紅咲さんに向けて振るわれた。
『カァッ!』
だがコクウが反応して棍棒へと突撃。棍棒は位置をずらされ、紅咲さんに命中する事はなかった。
「ありがと!」
コクウは一瞥だけしてまた飛び上がる。しかし、コクウがヘイトを稼いだ筈なのだが……しかもスナガを庇うようにオークが前に出て来た。少し引っかかる物はあるが……まぁいいだろう。
「ではそろそろ、拙僧の力をお見せしよう」
そこで出て来たのは弦山だった。納刀された鞘を手に持ち、腰に位置させると、握りに手を添えた。抜刀の構えだ。
「四幻流一ノ型・春疾風」
瞬間、弦山がその場から消え、砂埃が舞う。その姿を追えたのは、俺だけだった。
既に弦山はオーク達の背後におり、一瞬の静けさの後、弦山の納刀が響き渡る。すると、スナガ二体は全身を切り刻まれ、消滅した。
オークには当てていないらしく、無傷のままだ。
『は?』
『何が起こった?』
コメント欄が疑問で埋まっている。紅咲さんも何をしたのか分からないといった表情ではあるのだが、それでもオークから視線を外していない。
「高速の踏み込みと摺り足による縮地、そして抜刀による振り抜きと、モンスターとしての力が合わさり、瞬く間に七回切り裂いたのだよ」
俺の目には弦山の動きがハッキリと見えていた。弦山としても当然だがフルパワーでなどやっていないだろう。
っていうか何の流派の技だ?聞いた事ないし。
『マスクわかってるのかよ……』
『マスクは見えてるの?』(¥500)
「うむ。あれでも彼の全力からは程遠いだろう。ダンジョンはまだまだこれからだ、余力をペース配分を考えているに違いない」
『はえー』
『あの速さで全力じゃないって、全力だったらどうなるんだよ……』
『光を置き去りにしそう』
それは時を超えちゃうから。
「だが、見ものなのはここからだろう」
数的有利を作り出した時点で勝ちはほぼ確実。そもそも弦山単体で殲滅出来ただろうという事は無視して、俺は視聴者達に更なる期待をさせつつ、三名にプレッシャーを送るのだった。




