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VS焔場炎真

さいと呼ばれる武器がある。鋭く細い円錐状の切先のある、十手じってに良く似た武器である。見た目からかんざしのように見えるからとさいと名付けられたそれは、非常に使い勝手が悪い。


「なんだよその武器は!」


俺が釵二本を逆手に構えると、炎真君は嘲るように笑いながら大剣を構えて突貫してきた。


「相手の使う武器も知らぬというのに突っ込んでくるとは……いやはや、予想通りの人間のようですねぇ」


炎真君が大剣を振るう。俺は釵の腹を大剣に向けて斜めに構える。すると大剣は釵の角度により斜めに軌道を逸らされ、地面を叩きつけた。


「くっ、てめっ……何?」


炎真君は大剣を戻そうとするが、俺が刀身を足で押さえると、一切動かせなくなっていた。


「どうしました?焔場家の御曹司様。この程度も持ち上げられないとは……そのお身体は見せ掛けでしょうか?ボディビルダーをお目指しで?」


「黙れェ!」


大剣を蹴り、俺はバク宙して距離を取る。


「人をおちょくりやがって……!」


「焔場家はその圧倒的な攻めが特徴、と聞いていたのですが……ふむ、聞き間違いでしょうか。君はその、何というか──」


「あ?」


「──詰まらないですね」


「……そんなにお望みなら、殺してやるよォ!」


炎真君が青筋を浮かべる。煽り耐性も0と来たもんだから、発言とは逆に少し面白く感じてきた。


炎真君が大剣を空に掲げると、大剣が烈火を纏った。


「コイツで燃やしてやるッ!」


「おやおや、折角斬った傷を焼いてくださると?焼灼止血法ですね?止血までしてくれるとは……とてもお優しい方のようだ。感謝しますよ、炎真御坊ちゃま」


「ああああぁぁぁ!」


炎真君は怒り狂った様子のまま、大剣を振り上げて飛び上がり、俺へと振り下ろした。


「ただ──」


「ゴッ!?」


「──隙だらけですねぇ」


逆に飛び上がり、魔力と気を込めた蹴りを腹に入れ、地面へと叩きつける。そして俺は、釵を投げ付けた。


「ガハッ!?」


地面に叩き付けられた炎真君は空気を吐き出し、そして釵二本によって腕を地面に縫い付けられた。大剣は地面に投げ打たれる。


「灼光刃ノイリィ・マーヴ、でしたっけ?その大剣。こんな使われ方をされたら可哀想だとは思いませんか?」


大剣を拾い上げ、炎真君の上に跨るように移動する。


「か、返せ……!」


「返しますよ、私にとってはこんななまくら、無用の長物ですから」


頭の横の地面に突き刺さし、俺は釵を抜き放って炎真君から離れた。


炎真君は肩で息をしながら、大剣を支えに立ち上がった。


「どうされますか?御坊ちゃま程度では手も足も出ない事はこれで理解出来たと思うのですがね」


「まだだ、まだヤれる……!」


呼吸を落ち着けた炎真君は、再び大剣を構えた。その瞳に恐怖はなく、ただ俺を倒そうと怨みの炎が灯っている。


だがその時点で、俺からすれば脱落だった。


「死ねえェェ!」


炎真君は再び大剣に炎を纏わせ、肉薄してくる。俺は全く構えもせず、炎真君を待ち構えた。


「もう君は落第です」


大剣を振り上げようとした所で懐に飛び込み、釵で腕を巻き込み、そのまま炎真君の体を地面に押さえつけた。


「発言は小物。二流三流ですらない。良くて四流。まぁ、五流が妥当だとは思いますが」


「なん、だと……!くそ、なんで、立てねェッ……!」


俺は炎真君の背中を足で押さえている。炎真君は何故自分が立ち上がれないか、全く理解出来ていなかった。


「正直、このまま事故を装って君を再起不能にするのが最善手だとすら考えています」


「っ……!」


俺は釵を構え、切先を炎真君の前に出す。


「釵は非常に扱いの難しい武器です。しかし、この武器は非常に鋭く、肉を容易く貫きます」


「ひっ……!」


炎真君の顔に焦りが浮かぶ。


「頸椎、上腕骨隙間、梵の窪……これが何を示すか、ご存知ですか?」


切先を首に付ける。


「人間の急所です。頸椎を損傷すれば体は麻痺し、上腕骨隙間を突けば腕が使い物にならなくなる。梵の窪はまぁ……痛みなく死ねるかもしれませんが、殺すのは後処理が面倒なのでオススメはしません」


「や、やめろ……!」


「私の知り合いに被害を齎そうとした罰です。恨むなら、自らの愚かさを恨みなさい」


俺は釵を振り上げ、切先で突き刺した。


──勿論、地面を。


「フフ、冗談ですよ。無力な弱者にそんな事はしません。但し──」


俺は炎真君の目に自分の顔を近付けるようにしゃがんだ。


「──また同じ様な事をすれば、その限りではないと、覚えておきなさい」


俺は背中を向け、闘技場から去った。






…………






あれは本人の実力ではない。


偽った上で、それを演じる程の格上。


あのような人物が今まで居ただろうか。


──否。


そう確信を持って言える。


最小の動きで相手を無力化する技術。


例え相手が焔場家などという弱者だとしても。


その強さには興味が湧いてくる。


あれなら──私の力を発揮出来るかもしれない。


彼が去り、闘技場が静まり返る中、私は踵を返し、闘技場を離れた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 沖縄の武器なのか、初めて知った また弟子枠かな?
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