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カラスのマスク

もし宜しければ、ご評価・ブクマなどお願い致します。どろにんぎょう張りに小躍りします。

「お、俺が、アドストリーマー!?」


目を見開く。今の今まで目立つ事や人前に立つ事を極力避けていた男が急に衆目に当てられるようになるなんて、信じられなかった。


「冗談、ではなさそうです、ね……」


『申し訳ないが至って真剣な話だよ。君が助けた配信者、彼女の会社から話が来ている。彼女の命を救った冒険者、鮮烈デビュー……ネット中が湧き立つだろうよ』


想像に難くなかった。


有名な配信者の絶体絶命の危機に颯爽と現れ、救い、そして瞬く間に消えていったのだ。ネット上のコクウに関する話題もまだまだ高熱を帯びている。


鉄は熱い内に打て、という事か。


ずっと隠そうとしてバレて対処が遅れる方がマズい事態になるだろう。


『ただ。君をそのままデビューさせる事はしない。大事な冒険者にリスクだけ背負わせるのは理念に反するからな』


「と、言いますと……?」


『君には仮装して貰う。それも、特異な見た目にな』


「特異……?」


疑問符を浮かべていると、石動本部長の後ろから先程話したアサギリさんが現れた。彼女は黒い布のような物を持っており、画面の前にそれを広げて見せた。


「黒い、ローブ……?」


それは全身を覆うような黒いローブだった。


石動本部長が頷く。


『身隠しの闇と呼ばれるダンジョン産のアイテムでな。鑑定を無効化する力が秘められている』


「鑑定無効化ですって!?」


鑑定無効化スキルは現状、かなりのレアスキルである。対象を鑑定する時、鑑定スキルのレベルが高ければ高い程対象の詳細な情報を見る事が出来る。


故に鑑定スキルを持つ人は各所から引っ張りだこなのだ。


その鑑定スキルの無効化が出来るというのは、それだけで凄まじい価値がある。


『そうだ、篠枝君。付かぬことを聞くが、何かこれに合う顔を隠すような物はあるかね?』


「顔を隠す物、ですか。そんな物特には——あ!」


『ありそうかね?』


「はい、ちょっと待っててください!」


別の部屋に置いてある物を探る。その中に、すっぽり頭を隠せる物があった。


「これです!」


『ふむ、ペストマスクか。随分綺麗なまま保たれているな』


「毎日磨いておけと祖父から言われていたので」


ペストマスク——かつてペストが大流行し死者が大量に出ていた時期、掛からぬようにと医者が頭に付けていた物。


顔面を覆い、鳥のような長いくちばしには香りが出る物を入れて防護しようとしていたらしい。


効果は余りなかったようだが。


丁度よくこんな物があって良かった。しかし……。


「これ……被るんですか?」


人用の物なのはわかっているし、ずっと磨き続けてきたから無理な事はないのだが、本来の用途が用途、経った歳月が歳月のため、被るのは少し躊躇われた。


『問題はない。見た所、そのペストマスクは歴史上の物ではなく、更には市場で販売されている物でもない、ダンジョン産のようだ』


「え!そうなんですか!?」


石動本部長が頷く。まさかこれがダンジョン産だとは思わなかった。祖父が磨いておけと言ったのだから歴史的価値のある物だと思っていたのだが、違ったようだ。


『これで問題はないな。では、外出の準備をしたまえ』


「外出、ですか?」


『善は急げ、だ。今から迎えに行くから準備しておきたまえ。勿論コクウもだ』


「あの、ちょっ——」


頭の整理が落ち着いていないというのに、石動本部長は一方的に通話を切った。俺は仕方なく外出の準備をし始めるのだった。




………………





「随分と、トントン拍子で物事が進むのですね」


「潤滑油が居るからな、滑りも良くなるという物だ。では、朝霧君」


「表に回しております」


「うむ」


石動は重い腰を上げる。その間に朝霧は持っていたローブをアタッシュケースに丁寧に仕舞った。


「アポは?」


「既に」


「うむ」


石動が満足そうに頷き、そのままの足で本部前に準備されていた車に乗り込むのだった。












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