エリアボス?
「──てな、訳で、いよいよエリアボスかな!」
順調に配信しながら攻略していく。途中で出て来る火を纏った車輪型のモンスターである火車や狐のような見た目のすばしっこいモンスター、野干などと戦い、勝利を収めていった。
脱衣婆とやらが出て来た時はさっさと倒さないとBANされそうで少しビビったのだが、無事撃破。
こうして辿り着いたエリアボスの鳥居、なのだが。俺は鳥居に近寄り、足を止めた。
「?入らないの?」
「いや……そういう訳ではないが……」
何故か、入ろうとした瞬間冷や汗が流れるような感覚に襲われたのだ。
潰滅の騎士ですら特段感じなかった異様な雰囲気。楽勝なエリアのボスとしては考えられない程の違和感。
「……紅咲、注意しておけ。もしかしたら、配信を止めなければならないやもしれん」
「え……まさか脱衣婆を超える脱衣婆のメガ脱衣婆でも出るの?」
脱衣婆じゃなくて脱衣婆な。なんだメガ脱衣婆って。
「異様な雰囲気だ。この程度のエリアのボスからは到底考えられないくらいに」
「……う、うん、ごめん、分かったよ」
『カァ……』
俺がマジで言っている事に気付いた紅咲さんは、配信モードから戦闘モードに切り替えたようだった。コクウが若干呆れていたがまぁ良いだろう。
「……入ろう」
緊張しながらも、俺達はエリアへと入る。
「ッ!?」
エリアに入った瞬間から感じた威圧感。俺達は咄嗟に武器を構える。いや、構えざるを得なかった。
『──不意を突くなどと、卑怯な真似はしない』
奥には立派な社があり、辺りは木々に囲まれている。入って来た場所には当然鳥居もあり、石階段も見える。どうやらゴールで間違いないのだが。
「……聞いていた話と違うな」
『牛鬼の事であれば……今回は出番を代わって貰った』
社が開き、中から誰かが出て来る。
「……え?」
現れたのは背に身の丈より長い刀を挿し、深くフードを被った、身長1メートル程の存在だった。だが、一歩一歩、こちらとの距離を縮めるにつれ、その者の存在感が、俺を押し潰そうとしてくる。
「……紅咲、配信中止」
「……はっ、う、うん、分かった!ごめん、皆、事情はちょっと言えないかもしれないけど、今度また話すから!ごめんね、ありがとう!」
紅咲さんが配信を止める。俺は大きく溜め息を吐き、マスクとローブを脱ぎ捨てた。
「あの状態だったら、多分勝てない相手だ」
「そこまでの、エリアボスって事……?」
「この領域を形成しているという意味では、確かに拙僧が原因」
また更に距離を詰めて来る。
「拙僧の名は弦山。お主に挑みたく、参った次第」
「……成る程、俺目当てか。紅……あー、赤﨑さん、君は下がってくれ。コクウもだ」
「う、うん……」
赤﨑さんも緊張した面持ちだ。その存在──弦山を見る。邪悪な雰囲気は一切ないのだが、その圧倒的な存在感が、俺に危険であると告げている。
「──いざ、尋常に、勝負」
弦山が刀を抜き放つ。美しい波紋を携える刀なのだが、異様な雰囲気を醸し出している。
「妖刀『魈貓』。此奴も強者と戦いたくて仕方がようでな」
横に構えられた刀身が、陽の光を鮮やかに反射する。
「参る」
弦山がその場から消えた。
「っ!?」
肘と膝を打ちつけ合う。
その間には、既に刀の刃が挟まっていた。
「見事」
弦山が後ろに跳び、再び距離が空く。
「良く初見で止めた」
「止められると思ったんだろ?」
「さてな」
弦山が跳ぶ。頭上から刀が振るわれるが、杖を斜めに構えて刀をいなす。着地した弦山に対し、俺は拳を振るう。
だが俺の拳は空を切り、弦山は既に距離を空けていた。
「素早いな」
「拙僧の動きを捉えられているお主も中々」
「これでも鍛え方が違うんでねッ!」
摺り足の要領で前に移動、弦山との距離を詰めつつ、最小の動きで杖先を突き出す。
弦山は刀身でそれを受け止める。
「──縮地か」
「初見でこれ防ぐ奴、中々居ないんだけどなッ!」
杖先をずらして刀の腹に杖をぶつける。刀はずらされ、切先は地面へと落とされた。刀を制圧したそのまま体を近づけ、持ち手の部分で頭部を殴ろうとする。
だが弦山は紙一重でそれをかわし、後方に跳んだ。
「もう少し、本気を出すといい」
「……と、言うと?」
「お主から気だけではない。妖力、いや、魔力か。尋常ではない力を内包していると見た。全力で来て欲しいと思うが、拙僧では力不足かね?」
「……分かった、こっちも加減しないから。そっちも加減すんなよ」
俺は思考を切り替え、ただ弦山を倒す事だけに意識を持っていった。




