VS如意自在
「んー……バーニング、バーニングブラス……バーニングアタック……いやバーニングランス……んー、普通過ぎ?バーニングレンジャ……いやゲームだコレ……バーニングハーツ……歌の方だった……うぅん……」
ずっと技名を考えている紅咲さんを無視しつつつ、俺達はダンジョンを進む。
「バー……お?見て見て皆!これ凄くない!?」
とあるエリアに差し掛かると、紅咲さんが走り出した。そこは崖になっており、上から川が流れて滝になっている。下を覗けば滝壺も存在し、リアリティがある。
「すっごい清涼感。ダンジョンでこんなのが見られるのって不思議だよねー」
コメント欄もその意見には同意なのか、景色に関する話で盛り上がっていた。確かに俺もそう思う。ちゃんと水を感じるというか、滝になっているのだ。
壁面にもちゃんと苔が生えていたり、水が流れているからこそ壁が削られていたであろう部分も見受けられる。
こういう和風なダンジョンは海外にあるのだろうか。少し疑問に思うが、今は置いておこう。
滝の裏側を周るように道があり、そこを進んでいく。滝の裏すら見られるのだから凄い。命の危険が付き纏うダンジョンらしからぬ、観光気分だ。
滝の裏道を通り歩いていくと、鳥居があったのだが、今までの鳥居は順当に赤色だったのだが、今回の鳥居は紫掛かった不気味な光を纏っている。
「ボスエリアだね……さて、何が居るのでしょうか……では張り切って行きましょー!」
気合いの入った声を張り上げる紅咲さん。俺も同意し、鳥居を潜る。
世界が暗転。
現れたフィールドは、不気味でありながらも荘厳であった。
中心に巨木があり、しめ縄が付けられてる。周囲も木々に囲まれており、如何にも戦闘用のフィールドであると理解させられる。
巨木の下にいる巨躯の化け物。手には先が少しフォークのような形状になっている棒を携え、体はまるで皮と骨しかないと言わんばかりに細身。それでも身長は二メートルは余裕で超える程。顔も醜悪であり、如何にも妖怪であると言った所か。
「確か……如意自在、だったかな……さ、頑張りましょう!」
武器を構える。呼応するかのように如意自在が動き出した。動き自体はのっそりとした物なのだが、まだある程度距離が離れているというのに、持っている棒を振り上げた。
「回避!」
俺達は振り上げられた棒から横に移動する。
振り下ろされた棒は、何故か急激に伸び、棒の先の部分は俺達が元々居た場所に叩き付けられ、凄まじい地響きと共に土煙を上げる。
自在に伸びる棒──それこそ名前の通りな、如意棒のように扱っているのだが、如意棒ではなく、孫悟空でもない。
棒は素早く縮み、如意自在の手元に納まる。更に如意自在は、棒を持つ腕を引き、体を斜めに向けた。
その棒の先は、確かに俺へと向いている。
如意自在が腕を伸ばすと、棒が勢い良く伸び、俺を貫こうとしていた。だが、切先から着弾地点を予測する事は、俺からすればそう難しい事はなく。
棒を回避しつつ、俺は棒に対し肘鉄を打ち込んだ。打ち込まれた棒は地面に叩き付けられ、砂埃が辺りに舞う。
その隙に紅咲さんが如意自在へと距離を詰める。
「せいやあぁぁぁ!」
声を挙げながら穂先に炎を纏わせ、薙ぎ払う。如意自在は後退しつつ空いている腕で防御しようとするが、棒はまだ戻って来ていないため下がる事が出来ず、鋭く突破力の高い炎の槍は、如意自在の肘から下を切り飛ばした。
呻きながらも、如意自在は棒を戻し、未だ射程圏内に居る紅咲さんを薙ぎ払おうとする。
「『長頸烏喙』」
薙ぎ払われた棒に、コクウが突撃。棒が弾かれ、胴体は完全に無防備となった。そのガラ空きとなった胴体目掛け、紅咲さんは攻撃を仕掛ける。
その穂先は如意自在の心臓部目掛けて迷い無く突き出された。
肘から下が無くなった方の腕で槍を防ごうとするも、まるで紙のように貫かれ、そのまま如意自在の心臓部に突き刺さる。
如意自在は棒を落とし、もがき苦しみながら倒れ、消滅した。
「よしっ、こんなもんかなっ!」
ドヤ顔で胸を張る紅咲さん。
『相変わらずノーダメだな』
『鮮やかです!』(¥1000)
『腕切り飛ばして心臓一突きかぁ、怖いわぁ』
『肘鉄だけで如意棒みたいな奴落とすのヤバくね?』
『あれ如意棒じゃなくて孫の手な』
へぇ、知らなかった。
とまぁコメント欄も大分沸いている。この位のボスなら苦戦する事はまずない。油断は禁物ではあるのだが、流石に相手が弱過ぎる。
「よしよし、今日は実に調子が良きなので、エリアボスまで行っちゃいましょー!」
砂埃が発生するくらい頭上で槍を回しながら笑顔で言う紅咲さん。俺達は如意自在のコアを回収しつつ、先のエリアへと行くために鳥居を潜るのだった。
…………
何時からだったか。
この地に身を寄せたのは。
長い間、深い眠りの中に居た気がする。
暖かく、今すぐにでも忘れたい、そんな夢。
『グルアァァァッ!』
体長三メートルはあろうか、牛頭の巨人が吼える。右手にはこれまた巨大な斧を携えている。
社の扉を開け、外に出れば、既に斧が振り下ろされていた。
だが斧が、この身に届く事はない。
美しい波紋を持つ刀が、それを防いでいた。
「──すまぬが、此度の役、拙僧に任せて貰おう」
斧を振り払う。
「では、失敬」
一閃──
刹那、牛頭の胴体は真っ二つに切り裂かれ、消滅した。
「此度の邂逅は、果たして吉と出るか凶と出るか」
いずれ来るであろう、何者かの力をヒゲが感じ取る。
久方振りに心躍るであろう時間を前にして、その場で正座を行う。
流れる風も、響く葉音も、全てが懐かしく思えた。




