和風ダンジョン
「はい、皆さんはろばんちわ!紅咲アカと、コクウとマスクです!」
小さく頭を下げる。コクウはコクウで翼を広げて挨拶をしていた。
『はろばんちわー』
『コクウキーホルダー買ったよー』
『限定のやつ買えなかった』
「うむ、皆良く買ってくれた、感謝する。限定品については未定だが、通常品に関しては製造中だ。すまないが、もう少し待って欲しい」
『通常ですら売り切れなんだろ?凄いな』
『限定品は前日から並んでた奴いるらしいね』
『コクウたそ目線頂戴!』(¥3000-)
『カァッ!』
ドローン目掛けてコクウが飛び、目の前で翼を広げる。
『ファンサきたー!』
『かわE!!』
『マスクよりファン多いんじゃね?』
何言ってんだ、当然だろ。
「私も可愛いんだけどね?」
紅咲さんがウィンクをする。何で対抗してるんですか?
『アッ、ハイ』
『かわいいかわいい』
『コクウの勝ちかな』
「キィィィィ!」
『カァカァ』
地団駄を踏む紅咲さんに対し、コクウはそれを煽り始めた。コメントが大分湧き始める。
「はぁぁぁ、嫉妬。カラスに嫉妬したの初めてだよ」
紅咲さんは深く溜め息を吐いた後、気を取り直すために咳払いをした。
「さぁて、今回のダンジョンはこちら、山林ダンジョンとなっております」
山林ダンジョン、通称『神社迷宮』。傾斜の緩い山道を登りながら、奥にある鳥居を潜る事で次のエリア進む事が出来る。
難易度自体が高いのもあるのだが、和風のモンスターが多く、配信映えするダンジョンでもある。アドストリーマーとしてここを攻略出来る者は少なく、例え攻略出来たとしても、無傷だった者は数える程。
『マスクが居るとより不気味だな』
『和と洋って感じで少しミスマッチだけどな』
『コクウはピッタリ』
『アカちゃん巫女服着ないの?』(¥1000)
「うーん……今の所は余り着るつもりないかも。そだなー……あ、登録者数が大台に乗ったら……着たげるかもね?」
『皆登録しろー!どうなってもしらんぞー!』
『マスクはどうでもいいからアカちゃんに登録するんだよあくしろよ』
おい。
紅咲さんの巫女服についてコメント欄が大分沸いている。まぁ確かに紅咲さんの巫女服は似合いそうだな、薙刀とか持って欲しい。
「じゃ、張り切って行きましょー!」
鳥居を潜ると周りの景色が一変する。
鳥居の向こう側は少し暗くなっていて、鬱蒼とした木々がより不気味さを醸し出していた。道幅それなりに広く、戦う分には特に問題なさそうだった。
「早速来ましたね!」
奥から小さくだが、地響きと共に何かが現れる。全身が緑色の巨躯の男。鋭く短い角を生やし、口からは長い牙が生えている。
「その名も鬼!まんまだね!」
鬼──最早見た目からしてその名前以外あり得ないと考えられる程に鬼である。筋肉質な腕は、殴られば一溜りも無さそうである。
とは言え俺達の敵ではない。紅咲さんも槍を構え、戦う気満々だ。その表情に怯えは一切見られない。
「行くよッ!」
こちらを敵と認識した鬼が空に吠え、紅咲さんがそれに応じるように声を上げ、お互いに距離を詰める。
まず攻撃したのは鬼。
その剛腕を振り被り、紅咲さんの頭上から振り下ろした。
「甘いよッ!」
だがそれを予測していた紅咲三馬軽く回避し、槍を薙ぐ。鋭い槍が腕を直撃。そのまま切り裂いた。
片腕を無くした鬼が後方によろめき、これを好機と言わんばかりに紅咲さんが肉薄。
「──じゃあねッ!」
体のバネを利用した全力の突きが、鬼の胸部に突き刺さる。
鬼は悶え苦しむ様子を見せながら消滅。紅咲さんは残心とばかりに石突を地面に付けて呼吸を整えた。
「──って感じ!」
先程までの真剣な表情は何処や。今は明るい笑顔が視聴者達の視界に映っている筈だ。
「お見事」
『かっけぇ』
『普段アレだけど槍捌き凄いよね』
『カッコいいです!』(¥500)
『鬼の肌って結構硬い筈なんだが』
『マスクも自然に褒めてんのなww』
そりゃな。
「では、このまま君に前衛を任せるが……視聴者の諸君には、より簡単な戦い方を見せよう」
お誂え向きとばかりに今度は別のモンスターが現れる。
巨大なカエルのようなモンスター、蝦蟇である。人を簡単に一飲み出来る程のカエルが、地響きを鳴らしながらこちらへと跳んでくる。
「諸君らも動画を見ているのであれば知っているだろうが……我々はパーティだ。今までは個人の戦いのみを見せて来たが、今回は役割を持たせる。紅咲はアタッカー、コクウはタンク。私はサポーターだ。では、始めよう。コクウ」
『カァッ!』
コクウが俺や紅咲さんよりも前に躍り出る。すると蝦蟇はコクウに視線を向け、空高く跳んだ、そのまま落下で押し潰そうとするが、コクウは軽く回避する。
そのままコクウは蝦蟇の少し上を陣取りつつ、距離を離さないように器用に飛び回る。
「そもそも現実において耐久型のタンクはほぼ居ないが……コクウは謂わば回避タンクだ。ああやって敵のターゲットを取りつつ、本人は一切のダメージを受けない。あそこまでコクウが鳥である事と、素早いからこその噛み合いだ。そこで──」
「やぁッ!」
蝦蟇のターゲットがコクウに向いてる間に、紅咲さんがその無防備な蝦蟇の腹を薙いだ。蝦蟇の腹は切り裂かれ、傷口からは黒い靄が溢れ出す。
明確なダメージを負った蝦蟇が紅咲さんの方を見るが、視界を遮るようにコクウが飛んでくる。そのコクウ目掛けて蝦蟇は長い舌を伸ばすが、上昇と下降を織り交ぜた三次元的な動きにより掠りもしない。
その間に紅咲さんは下がり、攻撃範囲から安全に離脱した。その上で、俺は蝦蟇の舌目掛けて指を向ける。
黒い球体が舌を包み込み、長い舌を圧壊させる。舌を殆ど失った蝦蟇がよろめき、その隙に俺はコクウにエンチャントを行う。
「《長頸烏喙》」
「ぶっ飛べ!」
エンチャントにより弾丸の如き速度となったコクウと、鳳凰を模る炎の槍が蝦蟇を襲う。抵抗する術もなく体でそれを受けた蝦蟇は、喉と切り裂かれた腹に穴が開き、鎌 蝦蟇は消滅した。
「──このように、連携も出来る。まぁ、この程度のモンスターであれば我々個人個人で撃破出来るが、そうも言っていられないダンジョンもあるという事を先に伝えておこう」
『おーすげー!』(¥2000)
『蝦蟇って舌の範囲広いから厄介だって良く言われてるんだよな』
『あんま動けないから無視するべきとか言われてんのに、凄いな、ノーダメかよ』
『コクウたそカッコかわヨ!』(¥1000)
『アカちゃんかっこいいよ!』(¥500)
あれ?俺は?何で褒めてくれないのよ。
少し疑問というか不満もあるが、コメント欄も絶賛の嵐だった。これくらいであれば、多分紅咲さんの投擲技や、コクウの技、俺の重力でも余裕だっただろうが、視聴者の事もあるし、魅せプレイは大事だ、切り抜きにも使えるだろう。
「ねぇねぇ」
「……ん?何かね」
「私も技名付けた方が良いかな?」
「……後にしなさい」
「はぁい」
少しぶつくされた表情の紅咲さんに俺は呆れつつ、ダンジョンの奥へと進むのだった。




