転校生
第二章開始です!宜しければ、感想・いいね・評価・ブクマなどお願い致します!
「んー、ふふふーん」
ここは一番窓際の席、しかも一番後ろである。
現在は昼休み。大多数は食堂に行き、その他は弁当を持参したり、コンビニで買って来たりし、各々好きな所で食べている。
ここはとある学校のとある教室である。
「エリス?何見てんのー?」
「んー?」
ベストポジションに席を持つ女子高生──赤﨑エリスに近寄る一人の女子がいた。
「あ、嘘……それ、ちょー限定の奴じゃん!」
「そだよー」
エリスが眺めている物。それはカラスのキーホルダーだった。カラスの横顔が刺繍された赤いスカーフを身に付けたカラスのキーホルダーである。
「嘘でしょ……何時買ったの?……まさか転売ヤーとかから買ってたり?」
「違うよ、偶々手に入れたの」
「いいなー、アタシも欲しかったのにー」
羨ましそうに呟く女子。
因みに嘘である。
カラスの──コクウのキーホルダーなのだが、特定の期間しか開催されない限定ショップで、その中でも更に限定品。
高級な生地で作られた本物をそのまま縮小したかのようなスカーフ。雄々しく広げられた翼は、細部にまで拘った造りをしている。
現在販売されているコクウのキーホルダーは二種類。翼を閉じている状態と、欠伸をしている状態の二種。それ以外に、数量限定で販売されたのが、翼を広げたバージョンである。
余りに精巧に出来てるが故に、通常バージョンでも一個4000円。限定バージョンに至っては8000円もする。値段設定は結構ぼったくりである。
だが、そんな値段でも需要は凄まじく、限定バージョンに至っては、五万円で落札される場合も。今後のマスクの活躍に寄っては、更に値が上がる可能性が高い。
しかしエリスは、それを無料で、並びもせずに手に入れたのである。
(篠枝さんが身内分としてメーカーから頂いたヤツ──なんて言えないしねぇ)
鵠がメーカーから貰った分をエリスに分けたのだ。他にも井口、朝霧には渡している。
(ま、朝霧さんの場合は保存用も手に入れてるだろうけど)
エリスは確信を持っていた。
因みに、エリスは配信者である事はバレていない。顔立ちや声が似ているため、度々言われるのだが、専用のウィッグとカラコンを付けている上、普段と配信ではメイクが全然違う。更に、普段髪をポニーテールにしているため、案外バレないのだ。
「そういやさぁ」
「そいやっさ?」
「狸じゃなくて……いや良く突っ込めたなアタシ……あぁんもう、話進まんから戻す。エリスは知ってる?」
「知ってるよ」
「何をだよ!……はぁ、ツッコミ疲れる。あのさ、今日から転校生来るらしいんだけどさ」
「転校生?」
女子が頷く。
「なんかねぇ、全く情報が出回ってないの。どんな子か、ましてや性別すら分からないの」
「へぇ、イケメンかな、イケ女かな?」
「イケてるのは間違いないのね……もしアイドル張りの甘いマスクだったら、四天王に食い込んじゃうかもね?」
「五天王かぁ」
「誰か外れるの!五天王じゃ語呂悪いっしょ?」
「確かに」
お互いに笑う。
エリスの通う学校は、都内でも有数の私立である。じゃぶじゃぶ金が使われているのか、敷地がかなり広く、建物も多い。常に最新の設備があったり、教育環境が行き届いている。
そのため在校人数が都内でもトップクラスでありながら倍率も高く、並大抵の学力では通らず、学力だけがあっても通らない。
エリスの場合、制服が可愛いからという理由でここを必死に頑張ったのだが。
という学校なので、在校生も粒揃い。
校内では格付けとばかりに四天王と呼ばれるメンツがいる。しかも男女両方に。
一応、エリスも得票数だけで言えば四天王なのだが、学校外で有名人だと言うのに、内部でも有名人にはなりたくなかったので辞退している。
そこで教室の扉がスライドし、教師が入って来た。友人もそそくさと席に着く。
「では、HRを始めますが……その前に」
「転校生ですか!?」
女教師が名簿を教卓に置くと、男子生徒が身を乗り出して遮った。女教師にとってそれは耳にタコが出来る程聞いた内容で、その男子生徒からは既に四回、転校生について聞かれていた。
「……もう呼ぶから、ちょっと黙ってなさい」
「分かりやしたー!」
男子生徒は、呆れる女教師とは対照的に笑顔で着席した。周囲の生徒達も、表情に若干出ているくらい期待している。
まだ、性別すら分からないのだから。
「はい、じゃあ、入ってきなさい」
『失礼します』
「おっ、女のこ、え……」
いち早く声に反応したのは先程の男子生徒なのだが、入ってきた人物を見て凍り付いた。
凛とした声に凛とした佇まい。歩く姿すら美術品のように見えてしまう程に美しく、男女問わず声を失い、見惚れていた。
腰まで伸びる長い銀色の髪。見る者の視線を奪うような赤い瞳。教室には彼女の歩く音だけが響渡る。彼女は教師の横で歩みを止めると、生徒達へと体を向けた。
「氷室六花です、宜しくお願いします」
彼女──氷室六花は、表情一つ変えず、淡々と述べるのだった。




