本部長の提案
「ほっ……ホンブチョウ……?イスルギ……え?」
放心していると、画面がぐりんと回転した。
『初めまして、かな?篠枝鵠君』
「おっ……お初に、お目にかかります……石動本部長」
画面の向こうに居たのは巨躯の老人——いや老人に分類して良いのだろうか。
白髪の割合こそ黒よりも高いがまだまだフサフサの髪をオールバックに硬め、これまた白髪混じりの髭を蓄えたダンディな老人。
彼こそが現ギルドのトップであり、世界でも有数の元冒険者、石動漸堂さんである。
冒険者ランク——それは冒険者として登録すれば必ず与えられる物だが、ランクを上げるのは一手間必要である。
とあるダンジョンのクリア報酬をもってこい——特定のモンスターを一定数倒して来い——ダンジョンの奥底で低確率でドロップするアイテムを持って来い——など。
そうした条件を達成する事でランクは上がって行く。
ランク名は爵位と宝石を合わせた物らしく、石動本部長はかつて冒険者ランクの最高位、
赤金剛爵の一人だった。
金剛爵と呼ばれる最高位のランクの中の更に最高峰に位置していた。
他にも
・紅玉爵
・蒼玉爵
・翠玉爵
・金緑爵
などが存在する。冒険者になりたての頃はまだ爵位級にはなれないが、ある程度冒険者としての仕事を熟せばすぐ金緑爵にはなれる。
依頼の報酬金や行けるダンジョンなどは翠玉爵まではあまり高くならないが、一枚の壁、蒼玉爵から報酬が劇的に良くなる。
ただその分依頼やダンジョンの難易度は跳ね上がる訳で。
そんな死線を潜り抜け、如何なる状況からも生存し、更なる高みに至った数少ない者達。それが金剛爵と呼ばれる者達だ。
金剛爵とは向上心のある冒険者の殆どが目指し、憧れる高み。そんな場所の更に上にいるような人物が目の前にいるのだ。
『どうか落ち着いて欲しい……そう言って落ち着けるならとうに落ち着いているか。君に依頼……というより希望・提案に近いか』
「えっと……提案、ですか?」
石動本部長は頷く。
『君、正確に言えば君の家族であるカラス——コクウがネットを軸に話題となっているのは知っているかね?』
「はい」
『うむ。ネット住民の特定班はそれなりに優秀だ。それぞれ力こそそこまでではないが、何より数が多い。どういった情報から君に辿り着くかは見当が付かぬし、バレればマスコミや一般人が押し寄せて来るだろう』
「……」
『既にマスコミ各社から引っ切りなしに電話が掛かってきておる。遮断しておるが、一般回線からかけられては防ぎようもない。だからこそ、逆に先手を取りたい』
「先手、ですか?」
『うむ。君を、アドストリーマーとしてデビューさせるという事だ』