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緋山アルト

「ここが……」


途中で車を運転して来た井口さんと合流。車内でマスクの衣装に着替えている間にコクウも合流。コクウの案内により、目的地へと到着した。


巨大な倉庫だ。俺は意を決し、車のドアを開けて外に出る。すると、敷地内から黒服の男達が出て来た。


「井口さんは逃げてください」


「わかった、あとはお願い」


頷くと、井口さんは車でその場から離れていった。俺の肩にコクウが停まると、黒服の一人が一歩前に躍り出た。


「マスクさんですね?」


「まずは自ら名乗るのが礼儀ではないかね?まぁ、脅しを掛けてくるような小物に礼儀を問う事自体愚問ではあるが」


「これは失礼致しました。我々はデッドアイでございます。今回は招待に応じていただき、ありがとうございます」


黒服達は頭を下げた。なんだコイツらは……前に戦ったチンピラ集団とはワケが違うように感じる。


「歓迎の準備は出来ていると?」


「はい。パーティ会場というには些か無骨過ぎるかと思いますが、これが我々の精一杯のもてなしでございます故、ご勘弁を」


「……」


俺は無言のまま倉庫に向けて歩き出す。黒服達は横に割れ、倉庫への道を作った。間を抜けて行くが、黒服達が襲ってくる気配はない。


「……背後から襲ってくる、というワケでもなさそうだな?」


「我々が束になった所で、貴方に指一本触れる事すら出来ないのは明白。元より、貴方を倉庫に招き入れる事のみが、上司からの命令でございますので」


「……」


俺は一切返答せずに倉庫の中へと入った。中は真っ暗で何も見えない。


そして扉が閉まると同時に、倉庫内の照明が点いた。


「っ、あ……紅咲ッ!」


まず目に入ったのは、床に膝をついている赤﨑さんだった。彼女は肩で息をしていて、呼吸も荒い。


「し……マスク……」


彼女は俺にチラリと視線を向けるが、その表情は実に苦しそうだった。


「ようこそ、舞台の上へ」


「っ……」


倉庫の奥にある、ブルーシートを掛けられた資材の上。そこにはタバコを吸う男が一人、座っていた。


「貴様が外の連中が言う、上司とやらか?」


「その通り。俺は緋山アルト。デッドアイッて組織で一応幹部をやらせて貰ッてる。招待に応じてくれて、感謝するぜ?」


「……」


男の見た目には僅かなダメージすら見られない。少し視線を下にやれば、女性が横たわっているのが見えた。彼女は俺達が助けた女性だ。


「無抵抗の紅咲を攻撃したのか?」


俺はマスクの中で激しい怒りを灯す。が、笑いながら男は首を振った。


「人質使ッて無抵抗の女を嬲るのは趣味じャねェんだ」


「……本当か?」


紅咲さんの方を見る。彼女は漸くといった具合で、槍を支えにして立ち上がった。それでもまだ、肩で息をしている。


「……間違いは、ないけど……でもアイツ、私の攻撃が、効かないの……!」


「攻撃が、効かない……?」


紅咲さんが頷く。


「炎所か、槍すら、通らない……」


「物理攻撃すら……」


「悪ィが、種明かしはしねェぜ?」


振り返ると、男はケラケラ笑っていた。


「では、次は私が相手になろう」


俺は魔力を込め、炎の弾を飛ばした。少し前に、カデッシュから貰った力だ。男は眼前に迫る炎を左手で打ち払った。


左腕からは、小さく黒い煙が上がった。


「……あ?」


だが男にはそれが理解出来なかったようで、自らの左腕を怪訝な表情で眺め出した。


「どう、して……?」


紅咲さんですら驚愕の表情を浮かべていた。確かに効いてなさそうだが、それにしては両者共に様子がおかしい。


「……クックック、ハッハッハ!」


すると緋山は急に笑い出した。


「何がおかしい?」


「いやいや……今回はあまり収穫がなさそうだと思ッたんだが、それがどうだ?とんだ大豊作だぜ、笑ッちまうよ」


緋山は笑いながら資材から飛び降りた。疑問が拭えないまま、俺は緋山から視線を逸らす事が出来ず、杖を握り締めた。


「なァ、マスクさんよ。一つ、質問して良いか?あァ、別に答えなくても良いぜ?態々敵に塩を送る必要もねェだろうしな」


「……」


「扉の向こうの景色──綺麗だったか?」


「え、扉……?」


紅咲さんが呟く。俺は緋山の視線から目線を外す事が出来ず、内心動揺する。だが直ぐに心を落ち着け、浅く一呼吸する。扉の先に行った事はもうバレているみたいだ、嘘はつけない。


「あぁ、綺麗だったとも」


「そうかそうか……俺も、綺麗だッたぜ?」


緋山は笑ってそう返して来た。つまり、緋山もあの扉を潜るためのスキルを持っているという事。更に言えば、向こう側で何かを手に入れている可能性が高い。


「これ以上はお互い話す必要はねェ。俺も大体の目標はクリアした」


「もうお帰りか?主催者が先に帰るなど俺が許すとでも?」


「俺は主催者じャねェさ。宛ら、パーティのプロデューサーだ。主催者は──」


緋山はタバコに火を点けた。


「──その女だ」


緋山が指差した場所。そこに居たのは横たわる女性だ。


すると女性の体が跳ね上がる。何度も、何度も。その度に、嫌な気配が増幅していく。


「あーあ、また失敗かァ。高かッたんだがねェ」


緋山が肩を竦めて残念がる。


「この人に何をしたの!?」


「俺は着火しただけさ。燃料は全部その女持ちだ」


女性から黒い靄が上がり始める。それは徐々に俺達の前に集まり、形を成していく。


「大収穫を祝してお裾分けしてやるよ。物語症候群ナラティブシンドロームッて知ッてるか?」


「ナラティブシンドローム……?」


「知るワケねェよな。まァ、頭の片隅にでも入れておけよ。今は──」


靄が大きな形を成し、徐々に固まり、色を持ち始めた。


「──ソイツがお前らを歓迎したいとさ」


靄が消える。


禍々しい赤黒い鎌を携えた死神が、俺達を見据えていた。







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