騎士の素顔と……
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「おぉ……」
震える足腰をなんとか我慢しながら屋上まで辿り着く。だがそこに広がっていたのは、体の疲れを忘れさせる程の物だった。
「産まれて初めて、実際に見たかも」
ビルの全くない、遮る物のない綺麗な青空。眼下には先程の中庭や、広大な海が広がっていた。
「綺麗だろう、まるで景色を切り取ったかのようだ」
屋上には男が既におり、外を眺めていた。敵意も一切なさそうで、俺は自然と男の横に移動していた。
「……さっきから思ってた……んですけど、口調、変わってません?」
「ん?そうだな。だが、君も敬語になっているみたいだが?」
「いやぁ……敵じゃないと思ったら、なんか敬語使うべき相手に思っちゃいましてね」
「クックック、そうか。だが、敬語は要らない。私は……いや、ボクはもう、居ないからね」
「え?」
男を見ると、彼は兜を取った。
「……さっきまでなかったじゃん!」
そこには金髪のイケメンフェイスがあった。
「君との戦いを通じて、自分を思い出せたから……だと思う」
「成る程……所で、顔面交換しません?欲しいんですけどソレ」
「申し訳ないが、この身は売約済みだ」
「なんだ、残念」
お互いに笑う。
「……まずは自己紹介をしようか。ボクはカデッシュ。ここの騎士だった人間だ」
「俺は篠枝鵠」
「シノエ?不思議な名前だね」
「あー……鵠でいいよ。まさか現実でこんな説明するとは思わなかった」
「クグイか、理解したよ。その仔は?」
「コイツはコクウ。俺の兄弟だよ」
『カァ!』
コクウが翼を広げる。
「コクウね。……そうか、君は動物と兄弟なのか」
「色々あってね」
「戦ってみて分かったよ。長い事一緒に居ないと出来ないような連携だった」
「一対一をしなかったのはちょっと負い目なんだけどね」
「戦いは何時も死と隣り合わせ。カッコつけて死んでいたら意味はないさ」
男——カデッシュはふと笑みを浮かべた。
「……ここがどういう世界なのかは、ボクも分からない」
「ここの騎士だったんだろ?」
「あぁ。だけど、今いるここは、ボクがいた場所しか存在しないんだ。向こう側を見て欲しい」
「ん?」
カデッシュが指差した方向を見る。それは城から地続きになっている方向なのだが……。
「道が……途切れてる?」
「あぁ……あの場所から先は、存在しない。この城一帯だけが切り取られ、残り全ては海」
「?どういう……」
「分からないさ……少しだけ、推測は出来るけれど」
「推測?」
カデッシュが頷く。
「ボクのいた場所は、滅びの道を辿っていた。命の奪い合いはどこでも多発し、国同士は何時も争っていた。命を慈しむ事もせず、ただ、減らすだけの赤い世界」
カデッシュが目を伏せる。
「そんな折、世界中で天変地異が発生したんだ」
「天変地異?」
「あぁ。海に近い国で大型の竜巻や大波。森が近い国では落雷や火災。雪原の国では常に猛吹雪。まるで、神様が怒っているようだった」
「……」
「ここはまだ無事な方だった。難民達を受け入れ、何時終わるかわからない災厄に怯えながら過ごしていた。そんな時、空から光が降り注いだ」
カデッシュは空を見上げた。
「そこからは記憶がない。君が来るまでは、ね。気が付いた時、ボクにあったのは長い夢をみていたような感覚と」
「俺を斃す事、だっけ」
「その通り。それだけを命令された操り人形のようだったんだが……君との戦いを通じて段々と自分を取り戻せたんだ」
「良かった……んだよな?」
「当然さ、感謝しているよ。……それで、君が何らかの繋がりを持ち、ここに辿り着いた」
「繋がり……」
「思い当たる節はあるみたいだね」
「まぁ、ね」
「……おや、そろそろ時間のようだ」
「え?」
カデッシュを見ると、体が淡く光り始めていて、光は空に上がっていっている。
「ボクには役割があるみたいでね」
「役割?」
カデッシュは頷くと、俺に向けて手を翳した。
すると俺の体が純白の光を纏った。それは段々収束し、最後は胸から吸い込まれていった。
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スキル《No.I 王冠を戴きし者》
根源たる元素、火・水・土・風の力を得る
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「なっ——」
「ここから先、君達は様々な事に巻き込まれるだろう。ボクは君達が立ち上がり、立ち向かい続けられるよう、片隅で応援しているよ」
「応援するなら、ど真ん中でして欲しいんだけど?イケメンの応援なら誰でも喜ぶって」
「生憎、目立つのは苦手なんだ」
「そうかい、残念。……じゃあ、また会えたら会おうぜ」
「そうだね、また、会えたら」
カデッシュは満足気な表情をして、消えていった。
それとほぼ同時に、俺の視界が暗転し、一瞬の浮遊感が全身を包み込む。
再び視界が戻ると、そこは古城ダンジョンの玉座の間だった。
「……帰るか」
『カァ』
少しだけ寂寥感を抱きながら、俺とコクウは古城ダンジョンから出ようとした所で、グノーシスが誰かからの着信を受け取った。
井口さんからだ。
「どうしました?」
『やっと繋がった……!通話不能になっていたからもう巻き込まれていたかと……!』
「『もう、巻き込まれていた?』」
『えぇ!貴方とエリス宛に一通の手紙が届いたの……そこには……』
「……そこには?」
『助けた女をもう一度助けたければ、見つけてみせろ、と。ご丁寧に、女性の写真と居場所のヒント付きで』
「……赤﨑さんは?」
『こっちの制止も聞かないで飛び出していったわ!通信も拒否されてるの』
「分かりました。俺は赤﨑さんを追います。井口さんはそちらでの対処をお願いします」
『えぇ、社長にはもう伝えてある。ただ、警察は余り動かせないわ』
「脅しですからね、警察が動いている事が分かれば何をされるかわからない。貰ったヒントをください」
『お願い。あと、追跡機能をONにしておいて。準備出来次第、追い掛けて合流するから』
「了解!」
通話を切る。間を置かず、誘拐犯からの居場所のヒントが井口さんから送られてきた。
(海が見える……所々見える場所はあるけど、俺にはわからないな。だが、赤﨑さんが飛び出していった、通話も拒否しているとなると……場所を知っているのか?)
「コクウ!」
『カァ!』
コクウはヒントの画像を見ると、空へと飛び立つ。飛び上がるコクウに向けて指先でエンチャントを行う。
「頼むぞ、コクウ」
今回はコクウのネットワークだけが頼りだった。俺は多少海に近しい場所方面に走りながら、報告を待った。




