向こう側
いよいよ週間1位になりました!ありがとうございます!
いいね・感想・評価・ブクマなど、いつもありがとうございます、励みになってます!
——水の音が響き渡る。
「……あ?」
一瞬の浮遊感の後、俺は目を開けた。
「な、なんだ、ここ……」
綺麗に形が整えられた生垣。綺麗な装飾が成されたベンチ。勢い良く水を噴出させる噴水。そして何より、ここを取り囲む荘厳な建物。
ゲームなどで良く見る、城の中庭のような場所だった。
「……流石に、お前も見た事ない、よな」
『カァ』
コクウが頷く。まぁそりゃそうだろうと俺も納得する。全く知らない場所——という訳でもなく。取り囲む建物や中庭の様子など、少しだけ思い当たる物があった。
(古城ダンジョンの中庭……マーガライアと戦ったエリアに似てるが……でもなぁ)
生垣に鼻を近づければ青臭さが鼻をつき、噴水に手をやればちゃんと水飛沫が散る。
照りつける太陽光からもちゃんと熱を感じる。それ程リアルなのだ。ダンジョンなのかどうかもわからない。
もし古城ダンジョンなのであるなら。もしかしたら玉座の間に行けば、何かわかるかもしれない。
「……行くか、玉座の間。もしかしたら何かあるかもしれない」
『カァ!』
コクウが翼を広げる。俺は頷き、城内部への扉を強く押して中に入った。
「……うわ、すっげ」
思わず声に出てしまった。
それ程に荘厳で、それ程に絢爛。
そこらにある物全てに価値があるように感じる程、凝った形をしていたり、壁の装飾の複雑さや、所々にある金の装飾。壁に掛けてある蝋燭台ですら、幾らの価値があるのか予想も付かない。
なのだが。
「……人が居ない、な」
『カァ……』
動かずに耳を欹ててみるが、一切音がない。肝心の人間が一切居ないのだ。更に言えば、物音一切がないという事は、魔物すら居ないという事。
「俺らしか居ない、のかな。好都合と言うべきか、不都合と言うべきか」
不安や緊張や孤独感が大半を占めているからなのか、コクウに話しかけるように声を出してしまう。話し掛けているだけで孤独感が少しだけ紛れるように思う。
コツコツと、階段を上がる俺の靴音だけが響く。手摺りも手摺りで細かな装飾が成されている。
……ずっと城の中を進んでいるが、全く人影がなく、モンスターすら欠片も見つからない。安全ではあるのだが、ダンジョンなのかすらわからないのは逆に不安を煽ってくる。
そうこうしている間に、俺は一層豪華絢爛な扉の前に辿り着いた。扉を詳しく見てみると、確かに古城ダンジョン最後のエリア、玉座の間の扉に似ている気がするのだ。
「……行こう」
『カァ』
扉をゆっくりと開ける。今回は勝手に開くような事もなく、扉はかなり重たかった。
開けて中に入る。
「……本当に来る者がいようとは、思わなかった」
「……っ!?誰だ!?」
玉座の間中央にいる何か。それは全身鎧の男だった。様々な装飾が成された大剣は、鎧の男の前に突き刺さっている。
「私は……はて、疾うに忘れてしまったな。問われる事もなく、問う事もなく。ただ、私が為すべき事。それは——」
男が突き刺さる大剣を抜き放つ。
玉座の間全体に重い空気がのしかかって来るような感覚。肌がひりついて落ち着かない。
「——来訪者を、斃す事のみ」
男が咆哮する。
空気が振動すると共に、戦わなければならない事を嫌でも思い知らされた。
「やるぞコクウ!一筋縄じゃあ行かなそうだ!二筋縄でなんとかしたいな!」
『カァ!』
コクウが空に飛び上がる。
「ほう、鳥を手懐けている……いや、共に生きているというべきか。良き相棒のようだな」
「それはどうも!あんたは話が分かりそうだから、ここは穏便に行きたいんだけどッ!」
そうしている間に男の大剣が迫る。
俺は素早く自身にエンチャントをかけて飛び退いた。
大剣が叩き付けられた地面は円形に抉られ、ヒビが入った。
「生憎と、話し合いでカタをつけられる程出来は良くなくてな」
「そいつは残念ッ!」
更に肉薄してきる。見た目通りのガチガチの前衛だ。だが、こっちにも前衛はいる。
振り下ろされる大剣の腹にコクウが突進。軌道が逸れたまま、地面へと叩き伏せられる。
「ふむ、どうやらそこらの鳥とは違うようだ」
-
すると大剣が淡い光を纏う。
「——まずは鳥だ」
視線を一瞬にしてコクウに向けると、大剣を振り抜いた。振り抜かれた大剣から光の斬撃が放たれ、コクウへと迫る。
だがコクウは持ち前の素早さで、すんでの所でそれを回避。斬撃はそのまま壁面に当たり、瓦解した。
「当たればタダでは済まなかったのだが、いやはや、鳥らしくすばしっこい物だ」
「当たらなければタダだからな!」
指をコクウに向ける。
コクウは光を纏い、大量の羽を放った。
「『昏天黒地』!」
着弾を待たず、空間を支配するために発動させる。俺の視界が黒い球体で埋め尽くされ、空間毎抉る。
「これで——」
「——何ともならないな」
「!?」
黒い球体が消滅すると、奥に無傷の男がいた。一瞬にして距離を取ったようだ。
「これでも場数は踏んでいる。危険な攻撃というのは、反射的に分かってしまうのだよ」
「……初見攻撃を反射で避けるのは少しズルいんじゃないか?」
「それ程の範囲と威力があるのだ。相応しい対処ではないかね?」
「それは……確かにね」
肩を竦める。すると男は鎧をカチャカチャと鳴らしながら肩を揺らしていた。
「……どうしたんだ?」
「いや……久方振りかもわからぬ人との会話が、こうも面白いとは思っていなくてな。斃すのが少し惜しいと思い始めた」
「じゃ、もっと楽しくお話し出来そうだな?」
「ほう……理由を聞いても?」
「答えは簡単。俺があんたに……負けるワケないからだよ!」
素早く体にエンチャントを掛け、相手が判断する前に距離を詰める。遠距離からの対策が異常、多少のリスクを背負ってでも勝ち筋を見出したい。
「正面か……っ!」
距離を積める俺に対し男は冷静に構えるが、それよりも前に黒い弾丸が男の兜へと猛烈な体当たりを繰り出していた。
「くぅ……」
「腹筋崩壊ィ!」
すかさず男の懐に飛び込み、鎧に手を当てる。男は衝撃と共に後方に吹き飛ぶが、上手く着地をされてしまう。
「これは……」
だが男は大剣を支えにして漸く立っている状態。暫く身動きは取れないだろう。と思ったのだが、少し動きが鈍っただけのようで、両足で立ち上がった。
「魔力と気を同時に乱す技か……恐れ入る」
「まさかまだ戦える感じ?」
「当然だ。何せ私には——」
男が兜を取る。そこには頭がなく、中は空洞だった。
「——このように、中身がないのでな」
「……どうやって、喋ってるの?」
「わからぬ」
男は苦笑するかのように鎧を鳴らし、再び兜を取り付けた。杖を構えて万全を期すが、何故か男は大剣を抜かない。玉座の間に流れる空気も、何時の間にか威圧感がなくなっていた。
「……戦わないのか?」
「戦える、が……どうやら君の勝利らしい」
「え?」
首を傾げると、男の鎧が淡く光出した。
「……神というのも、捨てたモノではないのかもな」
「……?」
「まだ時間があるみたいだ。君と話がしたいんだが……場所が余り良くない。屋上まで来てはくれないか?」
「えっ、これより上に、まだ登らされるの?俺」
「軟弱な足腰だな、若者」
「そういうの、老害発言だぜ」
「クックック……じゃ、屋上で待っているよ」
男は光の粒子となって消えていった。
「……ま、ワープとかないよね」
『カァ』
コクウが頭に降りて来る。そして翼で俺の頭を軽めに叩いた。
「ん。コクウもお疲れ」
コクウが頷いて返して来たのを確認すると、俺たちは玉座の間から出て、再び階段を登っていくのだった。




