スキルオーブ
日間2位!
週間6位!
月間21位!
なんという快進撃。開いた口が塞がらないので石膏を詰めてなんとかしました。
皆様のお陰です、ありがとうございます!毎度言っているので言葉の価値は減っているかもしれませんが、それだけ感謝しております!
「気を、取り直しました。崖から落とした気は釣って来ましたので」
感情の波形が大分ぐちゃぐちゃだったのだが、それも落ち着いてきたようだ。
『相変わらずGタイプは無理なんだなぁ』
『Gタイプはツインアンテナだもんなー』
触角をツインアンテナって言うなよ。
しかし彼女はガチのマジでGが無理らしい。G関連の動画が流れて来た場合はチャンネルごとブロックするレベルらしい。
確かに虫タイプも少し嫌がってたもんな。だったらGが無理なのも頷ける。
とまぁデュビアが出てきたのはアレだけだったのでこれ幸いにとズンズン進み、いよいよ中ボス部屋まで辿り着いた。扉を開けると、そこは城の中庭のような場所だった。
「準備は?」
「大丈夫、行けるよ!」
『カァ!』
全員準備は完了しているようだ。俺は小さく頷き、扉を通り中庭へと足を踏み入れた。途端に扉が強く閉まる。
中庭の奥に広がる闇から音が聞こえる。それは蹄鉄が地面を蹴る音と、金属音だった。
闇から身を現したのは、馬車を引く二頭の馬だった。
二頭の馬は荒々しく嘶き、蹄鉄が地面を抉る。
「あれは……?」
「マーガライア。あれは馬車が本体で馬は偽物、というより馬車の腕のような物だ」
「嘘、マジ?御者もいるけど?」
「あれも偽物」
今俺たちがいるのはダンジョンの5階だ。ダンジョンによりけりではあるが、このダンジョンは5階層毎にボスがいる。
「まずは馬を倒さねば本体にダメージは入らない仕様だ」
「うぇー、さっさと本体攻撃したかったなぁ」
「残念だったな」
言葉では残念がっていたが、バッチリ戦闘体勢となっている。歩幅は小さく、穂先を正面に向けた状態だ。
「見れば分かると思うが」
「突進が得意って事?」
「そうなる」
「じゃ、一発。本気見せちゃおっかな」
「ん?」
気になり、彼女の方を見ると、槍を逆手に持ち、先程よりも低い体勢にシフトしていた。
そして槍全体が炎を纏った。
同時にマーガライアが空気が震える程に嘶く。それが戦いの合図であるかのように、マーガライアは地面を強く蹴り上げた。
「燃え尽きちゃえ!」
槍を上段に構えると、全身をしならせるように動かして槍を投擲した。
一直線に投擲された槍は、炎が更に燃え上がり、まるで鳳凰のような姿を写し出した。
そのまま槍とマーガライアが激突。激しい競り合いが発生したが、勢いは槍が勝り、馬は瞬時に燃え尽き、槍はそのまま御者へと命中。
貫かれた御者も焼け消えてしまい、馬車だけが残った。そして槍はというと。
クルクルと回転しながら彼女の手元へと戻ってきた。
「ほぉ、見事だな」
「うーん、しょーじきあの馬車まで消し飛ばしたかったんだけどなぁ」
個人的にはかなり感心したのだが、彼女は寧ろ不満げだ。それだけあの技には自信があったのだろう。
『キター!アカちゃんの十八番!』
『強敵相手にしか見せない大技見えた』
『リアルタイムで見られたの初めて!』(¥3000-)
コメント欄も大分沸いているように見えた。
「負けていられないな、コクウ?」
『カァカァ!』
コクウもかなりやる気のようだ。小さく頷き、俺は首を鳴らした。そしてコクウが俺の頭上高くまで飛んだ。
右手の指五本を全て、コクウに向ける。するとコクウは様々な色の光を帯びる。そして俺は、その手を敵に向けて振り下ろした。
「『昏天黒地』」
コクウが翼を振る。すると無数の黒い羽がまるで驟雨のように敵へと降り注いだ。その羽は徐々に黒い光を帯び始める。
当然だがマーガライアはその雨を避ける事は出来ず、全身に羽が刺さった。
「では、消えていただこう」
マーガライアの全身を覆う様に突き刺さっていた羽全てが黒い球体へと変化。そして球体同士が合わさり、巨大な黒い球体がマーガライアを包み込んだ。
そして球体が消え去ると、そこに残っていたのはボスのドロップ品と、丸く抉られた地面だった。
「ざっとこんな物だろう」
『カァーッ!』
コクウは勝ち誇ったかのように声をあげた。
「……えっ、と。つかぬことをお伺いしても?」
「ん?なにかね」
「いや、今何したのかなぁと……」
「悪いが秘密だ。種明かしはまだする時ではない」
ボスがドロップした物を見てみる。それなりに大きく、そして少し黒みがかっているコア。そしてもう一つが、
「スキルオーブ、か」
「えっ……?」
俺の呟きに紅咲さんが反応する。
スキルオーブ……本来であれば才能とは先天的な物で、後天的に身につく物ではない。
だが、ダンジョンが現れてから数年。当時最前線で活躍していた冒険者達は、美しい水晶玉を発見した。
後にスキルオーブと名付けられるそれを手に入れたのだ。
本来であれば才能は先天的な物。だがスキルオーブは、後天的に身につけられる才能の種のような物なのだ。
中には明確なハズレもあるが……運動が全く出来なかった者が『運動能力』のスキルオーブを使う事で、運動能力が発芽する。無論、そのままでは才能が余りなくても運動している人に比べれば余りにも低い。
だが、発芽した運動能力を、努力する事で伸ばせるようになるのだ。
更に、発芽したスキルは、血筋に残る場合がある。
鑑定能力を後天的に手に入れた人物の子は、先天的に鑑定能力を持っている場合があるのだ。
しかも、鑑定能力持ち同士の子であれば、更に確率は高くなる。その上、鑑定スキルレベルの初期値が高い事も立証されている。
スキルオーブが後の世代まで引き継がれる——スキルオーブ自体が、最初期から凄まじい値段だったのに、その事実が発覚後、最早国宝級といっても過言ではないのだ。
それを——なんと配信中にドロップしてしまった。簡単に言えば、一等の宝くじを大観衆の前で公表した——それの何倍何十倍もヤバい事なのだ。
「…………」
固まる紅咲さん。
『お』
『やべえ』
『まずいぞまずい』
『スキルオーブなんて初めて見たんだけど』
『都市伝説じゃないの!?』
『これもう伝説の配信になったんじゃ』
『リアルタイムでスキルオーブのドロップを見ちゃった……』
コメント欄も凄まじい勢いで流れており、見ようとしたコメントは読んでる間に流れていってしまう程。
やらかしたなぁ……と思いつつ、俺とコクウは皆と違って冷静なまま、スキルオーブを懐にしまった。




