経過報告
ランキング7位……まさかの一桁台に乗りました。ページを何度か更新するレベルで目を疑ました。
ランキングに載る何処ろか一桁大分になるなんて夢みたいです、ありがとうございます!
期待に添えられるよう頑張ります!
「成る程ね……」
俺と赤﨑さんはホリミヤプロダクションの一室に来ていた。向かいには井口さんと朝霧さんが座っている。
お茶と茶菓子を出されたのだが、如何にも高級そうで手を出し辛い。
「ズズ……つまり、先日の女の人は治療中と。もぐもぐ……ズズ……」
だが左にいる赤﨑さんはお構いなく頬張っている。しかも美味しいとか言わず表情を変えずに。……茶で流し込んでる?フードファイターか何か?
尚、テーブルにいるコクウも普通に菓子を食べている。
「綺麗に食べてる……可愛い……」
その通りで、コクウは普通のカラスというか動物と違い、出された食べ物は散らかす事なく綺麗に食べる。飼いだした当時から大分教育してきたからな。
……ん?
「あれ?今赤﨑さんが言った?」
「おん?はひもひっへはいよ?」
「……牛飲馬食ってか」
「?」
呆れる俺を後目に、ハテナを浮かべながらも彼女は菓子を食べている。あんな一心不乱に食べ……あれ、もう三袋目!?
「あー……おほん。篠枝君も食べてください。大した物じゃありませんから」
「は、はぁ……」
少し頬を赤らめた朝霧さん。横では何故か井口さんがクスクス笑っている。二人共出来るキャリアウーマンみたいで絵になるなぁ。
所で。
「連中は重度の薬物中毒者のように扱っていましたが……」
「えぇ。当然プライバシーもありますので、その点を踏まえた上での情報なのですが。多少の反応は返してくれるという事と、心もですが体自体も大分限界に近かったようです」
「肉体にもダメージがあったと。連中も体が売れなくなった、とも言ってましたからね。でも問題なのは、彼女がどうして薬物に手を出したのか、連中がどこまで関与しているのか……後は——」
「報道の問題、ですね?」
「……」
俺は無言で視線を向ける事で肯定する。
そう、あれ程大々的に救出、デッドアイの露見をしたというのに、盛り上がるのは殆どネットのみ。マスコミ界隈ではニュースのホンのひとつのようにしか取り上げられていなかった。
「えぇ、違和感を抱くのはわかります。デッドアイという組織は噂ぐらいしか出てきません。海外でも逮捕者は出ていますが、その全てが枝葉。情報源にはなりません。ですが、マスコミ各社がこのような対応であるとするなら——」
マスコミに対してパイプがある可能性がある、と。
俺は少し冷や汗をかき始めた。赤﨑さんもいつの間にか真剣に話を聞いている。コクウは未だに食べているが、聞いているだろう。
「……若しくは、マスコミがデッドアイの機密性を危険視し、慎重な対応をしているという可能性もあります。どちらにせよ、日本のマスコミにも影響力がある事は確実です。ですが、今回デッドアイが彼女を処分し損ねた事で、日本に居る連中を追う足掛かりが出来たと考えられます」
「警察が買収されている可能性は?」
「大いにありえる。無論警察全てが金にかまけて人命を疎かにしている訳ではないんだろうけど……彼らとしても、海外マフィアに下手に手を出すよりは、軽い損害で済ませる方が結果的に平和を維持出来る。警察関連の情報は現在社長にお願いしているから、その報告待ちになるわね」
少し遠い目をしながら井口さんが言う。色々思うんだが、社長は一体何者なんだ……一応前もって堀宮社長について調べたけど、敏腕である事と、元芸能事務所の社長だった事くらいしかわからなかった。
「それと……関連する話、だと思いますが。数日前の事件を知っていますか?デッドアイと遭遇した翌日の事件なのですが」
「いえ、全く。疲れていましたし、寝てましたね」
「私も寝てたよー」
「……では」
朝霧さんはそう言うと、グノーシスを経由して、あるニュース記事を俺たちに見せた。
「これは……?」
その記事は、とある雑居ビルの一室が爆発した事件だった。死体も五体見つかったとの事だが。
「詳細は伏せられていますが、貴方達は当事者ですのでお話し致します。……その雑居ビルで爆発が起きたのは、貴方達がダンジョンで女性を救出した日、それも救出後、暫く時間が経過してからです。そして、ビルからは、五体の焼死体が見つかった」
「焼死体……!?」
赤﨑さんが目を見開く。
「焼死体は炭化する程だったらしいのですが、その焼死体の指があった箇所に落ちていたのが、デッドアイの指輪だったのですよ」
「嘘……!?」
赤﨑さんと共に俺も驚いた。確かに彼らがまともにもう表にはいられないと思ったが、連中の手がこんなにも速いとは思わなかった。
「……口封じ、なのでしょうか」
「可能性はある。ただ、口封じにしては派手にやり過ぎではないか、というのが社長の見解よ」
「確かに……」
少しだけ、喉の渇きが速いと感じた俺は、お茶を一口飲む。芳醇な香りと深い味わいが広がり、確かな満足感を得られたように思えた。
「口封じにしては派手……じゃあその事件は謂わば、『俺たちへのメッセージ』……っていう可能性もあるんじゃないでしょうか」
「私達への、メッセージ?」
三名が俺に視線を向ける。俺は小さく頷くと、再び口を開いた。
「それもこのミヤプロだけではなく……デッドアイ以外の人々に向けてのメッセージです。近年では、如何にマスコミが情報を制御しようとしても、少しでも一般人が情報を持っていれば直ぐにでも拡散する時代です」
「えぇ、そうね」
「だからこそ、今回の事件も、ネット上が余りにも湧いている以上、マスコミは報道したくなくても『報道せざるを得なかった』。だから仕方なく、報道したという事実が必要だった」
「つまり、その結果がニュースの小ささという事?」
「はい。だけどそのお陰で、五人の遺体が見つかったという事実は特定の地域ではなく、日本各地に散らばった。当然、ネット上ではそのニュースを、今回の俺たちが戦った相手であると繋げてしまう連中が多いでしょう」
「噂だけはあるマフィア……仕事の失敗……五人、そして事件の時間……マフィアな都合上、仕事を失敗した事だけをニュースにされるのは、まずいって事、だよね?」
「うん。関連付けられるワードが多過ぎるんだ。ワードが少なかったり、線が細ければ冗談で流されていたかもしれない。だけど、ワード同士の繋がりが余りにも太過ぎる。そしてそれが、嘘か本当かは重要じゃない。更に、例えそれが嘘でも、本当のように偽るだけの力がネットにはある」
「デッドアイはここまでやるぞ、という事実を示した。そしてそれを広めたのは紛れも無く、我々という事ね?」
頷く。
「そしてそれを見かけた我々にしか伝わらないメッセージにもなる。俺たちの話題性を逆手に取られた、と言うべきなんでしょうね」
部屋に沈黙が広がる。
それを破るように、井口さんが態とらしく手を叩いた。
「兎に角、今私達に出来るのは配信する事。いつも通り、エリスの送迎は私が行うわ。篠枝君は顔バレしていないから、大丈夫かしら?」
「えぇ、大丈夫です。何かあれば、なんとか身を守るくらいなら出来ますし。それに俺にはコクウがいますから」
『カァ!』
今まで沈黙していたコクウが翼を広げる。まかせろ、とでも言っているかのようだ。皆も空気が少しだけ柔らかくなった事を感じ、お菓子を食べ始めたのだった。




