相反
祖父の家の古い本棚を漁っていた。
別に本を読みたいわけじゃない。
でも、何かが私を呼んでるような気がして、一心不乱に探し続けた。
私はふと我に帰った。
すると左手に古ぼけた本を握りしめていた。
その本の表紙はすごく綺麗で、綺麗な西洋の屋敷が森の中に佇んでいるものだった。
表紙には「ただ、抱きしめて」と書いてある。
私は本をそっと開いた。
本の内容は病で屋敷から出られない男の子に、天使の女の子が外の世界を教える、というものだった。
この本は病で死んでしまう男の子が最後、天使の女の子に「ただ、抱きしめて」と言い締めくくられていた。
本の世界が私にはすごく心地よくて、懐かしかった。
ただ、作者名は書いてなく、出版社も書いていない。
この本は買ってきたものではなく、誰かが個人的に祖父に宛てたものだった。
本を読み終わり余韻に浸りながら、いろいろなことを考えていると、今はいない祖母の気配がした。
祖母は生前、本を書くのが好きだったと、祖父からよく話を聞いていた。
おそらくこの本は祖母が祖父に宛てて書いたものだろう。
祖父は知っているのだろうか。
私はこの本を祖母の書いたものではないかと手渡した。
祖父はまさか、と言いながら本を開いた。
数十分経ち、読み終わった祖父は、泣きながら本を何分間も抱きしめていた。
文学は時を越えるというわけですね