アンダーグラウンド掃討作戦(三百四十八)
「今、戦闘機は関係ないでしょ」
その一言で、穏やかな笑いが静かになる。三人が振り返った。
宮園課長の満面の笑みが目に入る。おやおや。笑っているが、これは大変だ。何故かご機嫌斜め。
しかし不機嫌そうなのは判るが、どうしてなのかは判らない。
「何だよ急に」「戦闘中なんですよ?」「すいません。私が……」
フォローしたのは黒田だ。腕を伸ばしてデブの肩を引き寄せた。
それに半分驚いて『正論』を吐いてみたものの、琴美の謝罪を受けてしまい、却って場を収めるのに必死だ。
笑顔の黒田に全身を揺すられながら、慌てて琴美に『良いよ』と手を振る始末。そのとき黒井は『我関せず』の知らんぷりだ。
「そうだよ。戦闘中なんだもんなぁ?」「……?」
黒田が笑っている。暑苦しいからそろそろ放して欲しいのだが、その様子はない。それどころか、急に親し気に話し始めた。
デブには嫌な予感と、嫌な思い出しかない。顔が歪む。
「こいつの『対処方法』について、下へ連絡に行く奴はいないか?」
左手はデブの両肩を、しっかりと押さえている。それが、何となく『逃がさない』ようにしているように、見えなくもない。
何となくだ。黒田が自分を含めて、この場に居る全員を右手で『グルリ』と一周させてみたではないか。だから『何となく』だ。
「私、行こうか?」「ダメだ」
真っ先に手を挙げたのは琴美だ。しかし黒田によって即却下。
「じゃぁ、俺ですか?」
仕方なさそうに手を挙げたのは黒井だ。琴美に先んじられてしまったのはちょっと恥ずかしいが、それでも『二番手』は確保。
それに『どうせ黒田と二人だ』とも思っている。
現実問題として、ついさっき戻って来たばかりだし、通信も確保出来ない以上、下の連中と面識のある二人が行くのが妥当だと思う。
「お前は『別の仕事』があるからダメだ」
にべもなく却下。しかも、また別の任務とは。人使いが荒い。
それも黒田が笑顔のときは、再び『危険な任務』であるに違いない。やはり『命』が幾つあっても足りないようだ。
「えぇぇ? またぁ? これから『どこ』に行くんですかぁ?」
「それは『ココ』では言えないなぁ」「またまたぁ」
楽しそうに言うなと言いたい。言ってみたい。言ってみて、この状況が変わるなら直ぐに言いたい。
しかしどうやら『部外者』のいる場で、『作戦の概要』を話すつもりは無いようだ。機密情報の扱いに手慣れている。
「じゃぁ、誰が行くんですかねぇ?」
居合わせた四人の内、まだ二名が否定されたに過ぎない。
場を仕切り始めた黒田が『行かない』のは、何となく判るからこその『疑問形』なのだろう。
しかし宮園課長の声は、妙に震えている。
すると突然、琴美の表情が和らぐ。首を少し傾けて真っ直ぐに宮園課長を見つめた。これは『恋』だろうか。
一発逆転だ。思わず『どうだ』とばかりに黒井を見れば、まるで『祝福』でもするかのように笑っているではないか。
隣の黒田なんか、尚も力を込めて肩を揺すりながらの笑顔だ。




