アンダーグラウンド掃討作戦(三百四十七)
回路図を使って、もっと詳しく説明することも出来る。
それでも琴美の、『そうなんですか?』と尋ねるような笑顔を見てしまったら、再び否定する訳にも行かない。
万が一にも『何だ。合ってるじゃん』と言われてしまっては、『理解不足のデブ』と認識されてしまう恐れがある。それは避けたい。
「良く判ったねぇ。電子b」「戦闘機だと『あるある』だから」
専門家の言葉を遮るように、黒井が余計な情報を被せて来る。お陰で琴美の笑顔は、黒井の方へと行ってしまった。語尾が萎む。
「電子系トラブルと言ったら、そんなもんばっかりだからさぁ」
「へぇ。そうなんですねぇ。やっぱり『G』が掛かるから?」
「それもあるけど、気温の変化もあるし、経年劣化もあるかなぁ」
話題が変わってしまった。しかも付いて行けない話題だ。
戦闘機こそ『電子装備の塊』であると言っても、過言ではない。
だからコンピュータ技師にしてみれば、そちらの話に興味が向くこともあるだろう。
隣の芝生は緑く見えるものだ。例え雑草だらけであっても。
「戦闘機の電子部品って、結構長く使うんですか?」
「耐用年数は一応あるけど、予算の都合もあるし、大変なのよ」
黒井はパイロットの癖に、女にはモテないに違いない。
何だ『あの笑顔』は。さっきまでの『無関心』から一転。身振り手振りまで添えて、琴美と話し始めたではないか。
琴美の笑顔は見えないが、手を口に当てたりしている。きっと素敵な笑顔を振り撒いているに違いない。
「でも放置して、トラブルになったら大変ですよね?」
「良いねぇ。皆『そんな心配』、してくれたら嬉しいけどさぁ」
希望は叶わないからこそ『願い』となる。だから『希望』を知り得た時点で『願い』となる前に『叶える努力』が必要となるのだ。
それだけ『希望の表明』には重みがある。
「そりゃぁ、自衛t、空軍には、日本の空を守って貰わないとぉ」
琴美は思わず『自衛隊』と言いそうになって、言い換える。
祖父という『知っている顔』が傍にあって、少し油断していたのもあるだろう。近年稀に見る失態だ。
黒井の目が『?』と『!』で目まぐるしく変わっている。
一瞬『自衛の空軍』と言い直そうかと思ったが、黒井の驚きが何処にあるのか判らない以上、それも危険だ。
「計器が飛んだら、大変じゃないですかぁ」
違う質問にした。すると黒井も急に頷き始める。
「そうそう。飛んでる最中に起きると、もう大変なのよぉ」
さっきまでの調子に戻った。振り上げた手で黒田の肩をバンバン叩いている。琴美はニヤリと笑うと黒井を指さした。
「えっ、やっぱり有るんですか? 墜落しちゃうんですか?」
「いやいや。エンジンが回っていれば、直ぐには。結構大丈夫」
「そうなんですかぁ」「そうなんですよぉ。ハハハァ」
何だか二人の笑いが『乾いている』ように思えるのは気のせいか。
少なくとも黒田は『何とも』思っていない。黒井の手を肩から払い除けて、『シャーッ』と唸っている。肩こりではないらしい。
デブは腕をプルプルさせているだけだ。ニッコリと笑いながら。




