アンダーグラウンド掃討作戦(三百四十六)
「さっき『回路図』出してたでしょ? もう一回出せる?」「はい」
アンダーグラウンドの動画表示を小さくして、裏面に隠れていた画像を手前に持って来る。これかな? 違う。これかな?
「あぁ、今の」「あっ、すいません」「良いよぉ。落ち着いてぇ」
琴美は顎を前に突き出すように頷くだけで振り返らない。
妙に優しい声。ちょっと怖い。回路図を表示すると、琴美の視野端から、宮園課長の指が『ニュッ』と伸びて来た。
「このチップの精度に『バラツキ』があるらしいんですよ」「ほう」
得意満面な顔なのだろう。琴美は腕の動きに注目していて、画面の方は横目でしか見ていなかった。
「これ、もうちょっと拡大出来る?」「えっあぁ、はい」
ちょっと慌てて操作したものだから、一瞬『縮小』してからの『拡大』表示となる。うっかりミスだ。
「面白いねぇ。落ち着けって。あぁ、そんな感じで。有難う」
満面の笑み。どうやら琴美は『お気に入り』の仲間入りだ。きっと『好きな下着』を教えれば、直ぐに買って来てくれるに違いない。
下着に罪はないが『購入』してから『お届け』の間に、何が行われるかは不明だが。
それはそれとして、チップの表面には『ペンギンの絵』が見て取れる。言わずと知れた『ペンギン製』だ。
黒田は、『どうせ、そんなこったろう』と思った。
色々『オプション』を詰め込み過ぎて、回路が『パンパン』になってしまったに違いない。
「このチップがクソで。三十二番ピンから『過電流』が来るとぉ」
画面を人差し指で『トントン』と叩きながら、琴美の顔を覗き込む。どうやら『一種のクイズ』らしい。
何だと思った琴美は、少し体を反対側へと反らせた。苦笑いで。
「爆発しちゃうんですか?」「いやぁ、チップは爆発しないよぉ」
琴美のどうでも良い予想は、見事に外れてしまった。本当にどうでも良いと思っているから、細かく頷いて感心する素振り。
しかし宮園課長は非常に嬉しそうだ。
自分の『得意分野』で再び垣間見た『天使の苦笑い』が、余程気に入ったのだろう。当然のことながら、調子にも乗っている。
このまま『答え』を披露してやれば、見開いた瞳に星が輝く。
そのきらめきが集まって『ハートの形』になると、『ステキッ!』と叫びながら抱き着いて来る姿が目に浮かぶ。
いや『お邪魔な奴ら』が居るから、それは良くない。『ご褒美キス』を求められても、俺は困ってしまうぜ。ベイベー。
宮園課長に『春』が来ないのには、もしかして『相応の理由』があるからに違いない。
楽しそうな否定の後、背中を反らした瞬間に『漏れ出た妄想の一部』でコレだ。しかし『妄想だけでは罪にはならない』としたら、では何が彼の『罪』であったのか。
後世の歴史家による判断を、待つ必要があるだろう。
「コンデンサーが破裂して、Cー4の信管に火が入っちゃうの?」
黒井にズバリ『正解』を言い当てられて、殺意が芽生える。




