アンダーグラウンド掃討作戦(三百四十四)
「また破壊したけど、何やってるの?」「さぁ……。判らん」
ハッキングして映し出された映像を指さして、不思議そうに聞く。
聞いたのは琴美だ。椅子に座ったまま振り返っていた。
しかし、判る訳がない。専門家として言わせて貰えば、これはどう見ても『自爆』なのだ。宮園課長も腕を組んで、不思議そうに画面を覗き込んでいる。
「専門家なんでしょ?」「そうだけど、これはねぇよ」
思わず組んだ腕を解き、腕を伸ばして画面をトントンと叩いた。
互いに苦笑いである。見ている分だけで全損は『五機目』なのだが。一体いつまで続けるのだろうか。
まぁ、敵が自滅してくれているのだから、有難いと言えば有難い。
それにしても『お高い兵器』なのに、それを『自ら破壊する馬鹿』は誰か。いや、おおよその見当は付いている。
古今東西広しと言えど、そんな奴は『高田部長』しか思い浮かばない。今頃爆発する画面を見ては、楽しそうに『イエーイ』とか言っているに違いないのだ。気分が悪い。
思い出したくもないのに、今思い出してしまった。ムカつく。
「何かの『実験』じゃないかなぁ。奴のことだから」「へぇぇ」
再び腕組みをして答える。琴美は口を菱形にして唸った。
ぶっちゃけ『どうでも良い』。兵器が減るのは良いことだ。このまま争いが静まれば良いとも思っている。
「『奴』って誰だ? 『ホーク』か? 『ペンギン』か?」
言葉の端っこが気になったのか、質問したのは黒田だ。隣には黒井が控えているが、珍しそうにまだ画面を覗き込んでいる。
椅子に座る琴美が宮園課長の方に振り返ったので、黒井もつられて同じ方を見た。
「そんなん『イーグル』の馬鹿に決まってるじゃないですかっ」
「おぉおぉ。判るのかぁ?」「判りますよぉ」
黒田にも『そんな気』がしたのか、嬉しそうに確認すると、宮園課長は『さも当然』のように言い切った。
「知ってるの?」「あぁ。大分『昔』にな」「へぇぇ」
琴美が黒田に聞くと、何となく濁して答える。しかし、詳しく語るつもりはないようだ。肩を竦めてニッコリ笑うだけ。
「陸軍時代のお友達?」「あぁ、そんな感じ」「そうですかぁ」
聞いたのは空気を読まない黒井だ。黒田は仕方なく目を合わせ、『それ以上聞くな』と念を押す。
すると黒井も『軍機』と判断したのだろう。押し黙った。
「そんな話、聞いたことないけどなぁ」「何? 知り合い?」
画面を見ながら首を傾げたのは琴美だ。すると今度は宮園課長が意外そうに聞く。それもそうだ。
実はこの場に居合わせた四人は、『互いの自己紹介』をし合っていないのだ。だから宮園課長は『琴美の素性』を知らないし、黒田が『函館で逝き掛けた』のも知らない。
勿論黒井が無類の騎乗位好きであることも。戦闘機乗りなだけに。
「いやぁ? イーグルおじさんなんて、どんな人か知らないしぃ」
眉毛をピクピクさせながら否定して見せたのだが、だいぶ怪しい。




