アンダーグラウンド掃討作戦(三百四十)
「ほら、その『泡吹きねーちゃん』も、何とかしろっ!」
乱暴な言葉だ。朱美が『キッ』と睨み付ける。丁度机の間から千絵を引っ張り出した所だ。
「千絵! しっかりしてっ!」
デリカシーのない本部長は放置して、救護活動の方を優先する。取り敢えず頬をペシペシと叩き出した。返事はない。
そこへ遅れてやって来た富沢部長が、渋い顔で本部長のわき腹へパンチをぶち込む。
何も言わず、それでいて結構しっかり目に。こちらも『キッ』と鋭く睨み付けている。気持ちは『実父として恥ずかしいから黙ってろ』に違いない。反撃は無いが、痛くも痒くもないのだろう。
確かに本部長は口を尖らせていて、『何でだよ』と思っている。愛娘の行動は常に謎ばかりだ。
乱暴な言葉は、足元に転がっている『大佐に向けて』放たれた言葉であって、何で娘から腹パンを食らわなければならないのか。
「こっちに言ったんだよ」
大佐を足蹴にしながら説明したのだが、再び『キッ』と睨まれる。
その上、足まで『パチン』と叩かれてしまったではないか。
本部長は、嫌なことを思い出した。
突然『この人と結婚する』と連れて来た男を、感情に任せてボッコボコにしたことがある。朱美が割って入り、父親の顔に平手打ちをしていなければ、確実に殺していただろう。
今の目は『そのときの目』に、そっくりではないか。
「お前、今度は『こいつ』と駆け落ちするのかっ!」『バチンッ!』
良いビンタだ。本部長の顔は一ミリも動いていないが、今のビンタには『殺気』が籠っていた。
死を恐れない覚悟も。本部長の顔をジッと睨み付けるその目は、『殺すなら殺せ』と訴え掛けている。
「千絵! お願いっ! 起きてっ! 起きてっ!」
二度寝防止用の目覚まし時計のような悲痛な叫び。そこへ這いつくばるように大佐が近付いて来た。何だか頭がクラクラする。
「確か、解毒剤が下の穴に……」『ズボッ!』
大佐が指さしたのと同時に、朱美の手が遠慮なく突っ込まれていた。一瞬、千絵の目が見開いたのは気のせいか。
「大佐、『コレ』ですかっ?」「多分……」
自信なさげに首を傾げたが、頷くのは何度もだ。
富沢部長が、折れたナイフの柄の下より、小さな『白いカプセル』を取り出していた。本当に『コレ』だろうか。
何も書かれていないし、顔を真っ赤にした本人に聞く訳にも行かなそうだ。顎を揺らして口を開け、何だかアワアワしてるし。
「私が飲ませますっ!」
千絵のスカートで手を拭いた朱美が、悩むばかりの富沢部長から、白いカプセルを奪い取る。
確かに『医薬の知識』が有り余る朱美なら適任だろう。
カプセルを二つに割って、全てを躊躇なく千絵の口に放り込むと、これまた節操なく唇を合わせて息を噴き込む。




