アンダーグラウンド掃討作戦(三百三十六)
握り締めているのは確かに『手榴弾』なのに、まるで効果がない。
どうして怖がらないのか。赤上は不思議でならない。爆発に巻き込まれたら、死んでしまうと言うのに突っかかって来る。
まるで『誰もいない講堂』の如く、机の間を逃げ回るばかりだ。
「本当に爆発させるぞっ!」「煩い黙れっ!」「うわっ!」
机の間からヒョイと顔を出し、手榴弾が良く見えるように提示。
すると、顔を真っ赤にして迷わずに襲い来る。目も逝っちゃっているし、口角だけが上がった笑顔も逆に怖い。
もう『なるようになれ』なのか。髪も振り乱していて、むしろ手榴弾を握っている右手ごと、切り落とさんばかりの勢いだ。
目の前の赤上を切り刻むことが出来れば、あとはどうなろうと知ったこっちゃない。血で汚れようと、掃除するのは『男子の役目』とでも思っているのだろう。きっとあなたのクラスにも居たはずだ。
ぶち切れた委員長の姿にそっくり。もう、誰にも止められない。
手榴弾の他に何も持ち合わせていない赤上が、両手にナイフを持った千絵から逃げ果せていられるのには理由がある。
千絵が机上でバク転やら側転やら、とにかく『派手な動き』で赤上を追い掛けているからだ。
あ、凄い。今度は伸身のムーンサルトを決めた。D難度。
着地を決めた千絵が、そのまま腕をクロスさせて静止。
見栄を切るように少々顎を上げて、上から見下ろしている。
遂に息切れか。それとも技のネタ切れか。眼光だけは鋭く赤上を睨み付ける。しかし、肩で息をしている所を見ると、やっぱり息切れのようだ。息が落ち着いた所で赤上が『交渉』に乗り出す。
「ロボット軍団の攻撃を、直ちに停止しろっ!」
当然、千絵からの返事はない。何せ『非常停止』の方法を知らないのだから。
赤上は目の前の『危ない委員長』は機械音痴だと認定する。
となると『向うのお姉ちゃん達』、一人はおばちゃんか? に指示しないとダメなのかと判断した。両方を素早く見比べる。
「向こうに放り投げるぞっ!」「キャーッ!」「キャーッ!」
手榴弾を壁際の二人に投げる振りをしたではないか。
途端に目をひん剥いて、再びパニックに陥る二人。
さっきまで抱き合って状況を見守っていたのに、今度は我先に逃げ出そうとして正面衝突をしてしまった。
それでも『逃げる』のは止められない。でもまた正面衝突だ。
回れ右して『後ろ』へ逃げれば良いのに、前にしか行かれないのだろうか。右へ左へと進路を変えても、互いに正面のままだ。
見れば赤上が走り出していた。二人を逃がさないように、回り込んでいる。それを見て、益々パニックになってしまう二人。
千絵だけは机の上を走りながら、チラチラと前後を見る。赤上と二人の間に入って『投げさせまい』と必死だ。
しかし、そんな追いかけっこにも直ぐに終わりが来た。
後ろに三歩下がった赤上は勢いを付けると、まるで野球のボールでも投げるように手榴弾を投てき。爆発へのカウントダウン開始だ。
千絵はそんな手榴弾に向かって、机上から跳躍していた。




