アンダーグラウンド掃討作戦(三百三十四)
『ガシャンッ!』「うわぁっ!」
千絵だ。一人で追い掛けて来ていた。少し遅れたのは、身支度を整えていたからだろう。上着を逆に着ている。
一方の赤上は、ディスプレイもろとも床まで落ちていた。
しかし後悔はない。砕け散った『ガラス片』を見てほくそ笑む。
素人目には『ディスプレイが壊れた=マザーコンピューターが停止した』に見えるのだろう。馬鹿め。してやったりだ。
今はもう『脱出』の二文字が脳裏に浮かんでいる。
さっき大佐にぶん殴られた勢いで、頭に入っていた地図は吹き飛んでしまっているが。
「千絵ッ! そいつ、何か持ってるっ!」「気を付けて!」
壁際からの声に頷く。勿論『敵』から目を離したりはしない。
完全に息の根を止めるまでは油断しちゃダメって、教官に教わったし、模擬戦闘でもそうして来た。
まだ審判が『ハイッ! 今ので死んだっ!』とコールしていない。
だから戦闘は継続だ。しかし、机の上に飛び乗っていた千絵は、遠巻きに様子を見るだけ。深追いはしない。
相手の『手』が見えない内は『何かを警戒する』のも、教えられた通りの行動だ。ジッと観察している。
すると、パッと赤上が立ち上がった。予想通りだ。
敵もさるもの引っ掻くもの。頭を小突いて床に落ちた位で『戦闘不能』にはならない。久し振りの『実戦』に胸も躍る。
「本物だっ! 爆発させるぞっ!」
高く掲げられた赤上の拳には『手榴弾』が握られていた。
ここで表記を『手榴弾』にするか『手榴弾』にするか迷う所だが、大人の事情により、単に『手榴弾』と表記することとする。
一度胸の前まで持って来ると、勢い良く安全ピンを抜く。そして、再び高く掲げたではないか。手を離したら後はどうなるか。
「キャーッ!」「キャーッ!」「キャーッ!」「キャーッ!」
例によって『ギャラリー』が煩い。まだ叫び続けている。
確かに一般人にしてみれば、『手榴弾の実物』を目にすることなど有り得ない。『死にたくない』の感情が沸き立つものだ。
確かに映画やドラマの中でなら、目にしたことがあるだろう。
だから『どうやって使うのか』も知っているし、『使った者がどうなるのか』も、一種の『お約束』として知っている。
今の状況は、それと酷似しているではないか。
勿論、千絵も同じ気持ちでいた。だから冷静だ。
「動くなっ!」「……」「おいっ! 動く、なっ」「……」
赤上は脅しているつもりでいるのだが、千絵は全く無視してゆっくりと動き続けている。
二人の睨み合いが続いていた。互いの目を見ての牽制が続く。
突然、赤上が『根負け』したのだろうか。顔は千絵の方を向けたまま、目ん玉だけが上下に素早く動き出す。
千絵が自身のスカートを赤上から良く見えるように、ゆーっくりと捲っていたからだ。膝頭はもうとっくに通り過ぎている。
小指を立てた両の手を捻りつつ、真横へと摘まみ上げながら。




