アンダーグラウンド掃討作戦(三百三十三)
大佐にとって『女性の張り手』はご褒美以外の何物でもない。しかしそれが『鍛え抜かれた教え子』の場合は失神せざるを得ない。
顔に手を出すなら『殺す気で行け』と教えたのは、大佐自身なのだから。全く、何もかもが裏目に出る人生である。
本当は、喧嘩になった二人を『止める意味』で、言い放っただけなのだが。どうも曲解して伝わってしまったらしい。
『百人組手の真相』にしてもそうだ。『ファルコンを唯一止めることができた男』とか、『死神ホークと飲み友達』とか。
果たして『ボケ茄子依井大佐』の、報われる日は、いつになったら来るのだろうか。合掌。
実はすぐ傍に『変態』はもう一人いた。薄目を開けて、ジッと様子を伺っていたのだ。そいつは、千絵が『女の表情』を魅せた一瞬の隙を突いて動き出す。
露わになった正解を器用に弾き飛ばしつつ、自身も転がりながら立ち上がった。赤上だ。レッド・ゼロの伝説を築く男。
驚く千絵の表情を視界の片隅に入れながらも、しっかりと前を向いて走る。実に器用だ。刻々と首の角度を調整しつつ。
そして、開け放たれたままの薄荷乃部屋へと飛び込んだ。少しは名残惜しかったのかもしれない。
しかし赤上は『仕事』を忘れた訳ではなかった。
「マザーコンピューターを止めろっ! 今すぐにだっ!」
叫びながら、ポケットから『何か』を取り出そうとしている。
しかし『ピン』が引っ掛かっていて、中々出て来ない。
「キャーッ!」「キャーッ!」「キャーッ!」「キャーッ!」
見分けが付かないかもしれないが、第一声が朱美で、第二声と第三声が富沢部長。青ざめた二人。
そして、最後の第四声が朱美である。表記上は一行に収めるために四回の発声であるが、この説明中も継続中だ。
つまり二人は仕事を放り出し、抱き合って『キャーキャー』言うだけの女になってしまったのだ。
冷静になって、『ミントちゃん。レザービーム宜しく!』と叫べば、まだ『レーザーディスク』をマウントしてくれたかもしれない。
あるいは『ミントちゃん。ぶっ殺して!』と叫べば、恥ずかしい過去の映像を捏造してでも垂れ流し、人として社会から抹殺だってしてくれたことだろう。
勿論『ミントちゃん。110番!』と叫べば、直ぐに電話を掛けてくれたに違いない。内線110番(高田部長席)に。
赤上はドキドキしていた。まるで自分が『スター』にでもなったかのように感じる。何せ目の前には『興奮した女性二人』がジャンプしていて、ミニスカートをピラピラさせているのだから。
ポケットから手榴弾を出すのは止めて、違う所から別の物を出そうかと思ってしまった自分が恥ずかしいやら、でも我慢のような。
赤上は机上で騎乗しようかと飛び上がる。そのままコンソールへと近付く。その仕草だけで、女二人はサッサと逃げ出した。まだ叫びながら壁際まで猛ダッシュだ。そこで再びジャンプし始める。
「こいつが『マザーコンピューター』だな」「だったらどうする!」
赤上がコンソールを机上から見つめた瞬間、後ろから飛び蹴りを食らう。するとクルリと回って見事騎乗、とはならずに落馬した。




