アンダーグラウンド掃討作戦(三百三十二)
本部長が試作した『ヌンチャク壱号』の回路図によると、起爆スイッチは『ゴムの結合部』となっていた。
一定の力が加わると外れ、並列に接続されたコンデンサーから一気に電流が走る。すると信管が作動する仕掛けだ。
きちんと『冗長化されている』のが本部長らしい設計か。伊達に『技術者』を名乗っている訳ではない。
それでも、実物で実験した訳ではないのが、所詮『試作品』で終わってしまった由縁でもあろう。
又は、嬉しさの余り、翌日には高田部長に見せびらかし、『そのまま持って行かれた』という不運もあろう。
それでも『回路設計』自体は、NJS製ノートパソコンとして製品化されたものを流用していることから信頼性は折り紙付き。
箱を開封したときに出て来る『金色の千代紙』には、そんな意味も込められているのだ。決して『無意味な一枚』ではない。
だから確かにその瞬間、起爆スイッチは正常に動作していた。
コンデンサーは実装された二個とも正常で、C4を起爆するにも十分な電力を供給する。そして確かに『起爆』したのだ。
『ポンッ! シュゥゥゥゥッ!』
しかし『チタン合金の特別製』が結果として災いすることになる。
強度があり過ぎたのだ。それはもう物凄い程に。
以前製品化したノートパソコンのように、細かい『ブレード構成』にしたのとは訳が違う。何と、強度をバキバキに増した『インゴットからの削り出し』により形作られている。
生半可なドリルでは削ることすら出来ず、人工ダイヤモンドによる『ノミ歯』から設計を開始。切削加工に必要な『冷却油』も独自ブレンドにより辿り着いた。苦心の一品なのだ。
故にヌンチャクは、ロケットの如く飛翔する。
真円ではないため空気抵抗は一様に非ず。当然、空力なんぞ調査対象にもなっていなかったことから、やがて『回転』に落ち着く。
『カンッ! ガンッ! カッカッカッカンッ! カララーン』
それが天井、壁、床、壁、天井と目まぐるしく動いてはいるが、『誰もいない所』で金属音のみを奏でる物体と化していた。
初号機の打ち上げは見事失敗である。
意味が判らず『謎の物体』を千絵は目で追っていた。
そして意味があるかは不明だが、一応『ファイティングポーズ』は取ったまま。目だけはパチクリし『謎の解明』を試みてはいるが。
天晴。『戦場では気を抜いちゃダメッ』の強き教えが見て取れる。
「大佐っ! お怪我はありませんかっ!」「うぅぅぅ」
見れば大佐の顔からは鼻血が噴き出していた。赤髭のように。
しかしそれは、千絵にしてみれば『怪我の内』には入らないらしい。ハンカチを出して拭く仕草すらも無い。
きっと千絵にしてみれば、『腕の二、三本』が取れてからが本当の勝負なのだろう。誰の教えか知らないが厳しい教えだ。
うっすらと目を開けた大佐の顔を見て、むしろ千絵は喜ぶ。『良かった』と両手を伸ばした瞬間だった。
『バチンッ! バチンッ!』「何見てるんですかっ! 変態!」




